研究課題/領域番号 |
19K22463
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
石川 尚人 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学プログラム), 研究員 (80609389)
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研究分担者 |
菅 寿美 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学プログラム), 技術主任 (80392942)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | クロロフィル / 再利用 / 爆弾炭素 / 植物標本 / タイムマシン |
研究実績の概要 |
近年、大気CO2の主要な吸収源の一つである陸上植物は、地下根圏とも巨大な炭素の交換チャンネルを有しており(Klein et al. 2016 Science)土壌から炭素をリサイクルしてクロロフィル a を生合成していることが示唆されている(Ischebeck et al. 2006 Journal of Biological Chemistry)。本研究は、スイス高山地帯で1940~2010年代に採集された葉の博物標本(コナラ Quercus pubescens; Quercus petraea; ブナ Fagus sylvatica)と分子レベルのΔ14C分析を組み合わせ、大気CO2以外の炭素起源を特定することを目的とした。University of Zurichの研究者の協力で取得した、計30標本の葉全体のΔ14C分析を行い、1960年代にΔ14C値のピークが存在することを明らかにした。これは(1)14Cが米ソ冷戦時代の1950~60年代に、大気核実験を通じて大気中へ大量に放出さたこと;(2)1963 年にようやく大気核実験が禁止される頃には、大気中の二酸化炭素(CO2)に含まれる14C濃度は、自然状態のおよそ2倍まで増えていたこと;(3)その後、植物や海による吸収などを通じて、大気CO2の14C濃度は減り続けていること、などと極めて整合的である。実際に、文献で報告されている、西ヨーロッパの大気CO2に含まれる14C濃度の1950年代以降の増減と、本研究で分析した葉全体のΔ14Cの変動パターンは、ほぼ一致した。したがって(1)葉の博物標本のΔ14Cは、過去の大気CO2の情報を記録するタイムマシンであること;(2)特に大気CO2の14C濃度が極めて高かった1960年代の試料をターゲットとすることで、大気CO2由来の炭素と、土壌由来の炭素をΔ14Cで明確に区別できる可能性があること、などが示された。全体として、ここまでで本研究の作業仮説を検証していくための下地が整備された、と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アーカイブ試料の葉全体のΔ14C分析までは終わったが、クロロフィル a などの分子レベルのΔ14C分析が遅れている。これは、高速液体クロマトグラフィーを用いた単離、精製作業に時間がかかっているためである。今後、実験作業のさらなる効率化を図ることで、データの生産速度を上げていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
大気CO2濃度の増加は重要な問題であるが、一方で生態系には炭素のリサイクルシステムが見られる。植物が土壌炭素を直接使って、クロロフィル a のような複雑な化合物をリサイクルしている、という斬新な仮説が支持されれば、森林生態系の炭素循環像が大幅に描き換えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験条件の検討に時間がかかり、予算の使途が確定しなかったため。今後速やかにこの問題を解決し、実験助手を雇用するなどして研究のスピードを上げていく予定である。
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