研究課題/領域番号 |
19K22464
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大城 朝一 東北大学, 医学系研究科, 助教 (40311568)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | infra-slow oscillaiton / ヒスタミン / 血管運動 |
研究実績の概要 |
これまでの薬理学的スクリーニングから、ヒスタミンとそのアンタゴニストを脳内に直接投与すると脳波に含まれる超低周波成分(infra-slow oscillation)が消失する事が明らかとなっていた。この観察を手掛かりにしてヒスタミン合成酵素遺伝子(HDC)を欠損するノックアウトマウスを入手し、infra-slow oscillationの異常を調べた。予想外にもinfra-slow oscillationに異常は観察されなかった。しかしながらこのノックアウトマウスでは遺伝子の欠損が不完全で、正常に翻訳されたタンパク質が微量ながら発現していることがウエスタンブロット法により確認された。よってHDC遺伝子を完全に欠失した変異体を新たに作成することからやり直す必要がでてきた。Germ-line recombination 法によりそのような個体を得ることができたので、現在そのマウスの増産と解析を急いでいる状況である。さらにGABA受容体beta3サブユニットがヒスタミンの受容に関わっていることが外国の報告から明らかになっており、この遺伝子のノックアウトマウスも入手しinfra-slow oscillationの異常を調べた。しかしこちらの方も異常は観察されなかった。ところが、このノックアウトマウスでも遺伝子の欠損が完全ではなく、正常に翻訳されたタンパク質が発現していることがウエスタンブロット法と蛍光免疫染色法により確認された。現在、この遺伝子の新たなノックアウトマウスの確立に成功したので、今後、遺伝子の完全な欠損の確認とそのマウスでのinfra-slow oscillationの異常を調べる予定である。一方、既知のヒスタミン受容体(Hrh1, Hrh2, Hrh3)の変異体ではinfra-slow oscillationの異常は見られず、よってそれらの関与は否定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒスタミン生合成に関わると考えられる遺伝子の機能喪失変異マウスをこれまで5系統入手しinfra-slow oscillationを調べたが、すべてにおいて異常は確認されなかった。ところがそのうち核心ともいえる2系統(HDCとGABA beta3)で機能の喪失が不完全であることが明らかとなった。これらの遺伝子の機能喪失が完全でなければヒスタミンの関与を完全に肯定も否定もできず、本研究課題の目的の一つであるinfra-slow oscillationに異常が生ずるマウス変異体の同定が困難となる。しかしながらこの2系統については完全な機能喪失変異マウスの作成に最近成功した。現在それらの解析を急いでいる状況である。一方、optogeneticsおよびchenogeneticsを用いたinfra-slow oscillationの外部操作に関しては肯定的な結果が得られているので、本研究課題の目的の二つ目であるinfra-slow oscillationの任意のタイミングでの外部操作法の確立については順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、HDCに関してはその完全欠損変異体と考えられる個体をCre-loxP mediated germ-line recombination 法により作成する事ができたので、Genomic Suthern法やDNAシーケンシングを用いて分子生物学的に遺伝子の欠損を確認している段階である。GABA beta3に関しては完全な遺伝子機能欠損が期待できる新たなfloxアリルを中国Cyagen社との協力により確立できたので、こちらも現在、遺伝子組み換えマウス個体の増産を行っている状況である。引き続きマウス同士の掛け合わせを行い解析を進め、infra-slow oscillationの異常の有無を確認する。 さらにヒスタミン生合成経路とは別に、脳血管平滑筋に発現している光感受性タンパク質であるopsin3がinfra-slow oscillationの維持に関わることを示唆する薬理的な結果も得ているので、この遺伝子の変異体も入手し、infra-slow oscillationの異常の有無を確認していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な遺伝子組み換えマウスの系統に変更や新規の追加などがあり、その購入代金(消耗品扱い)、飼育費用に当初の計画とのズレが生じたため。
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