研究課題
Germline recombinationと呼ばれる方法で、ヒスタミン合成酵素遺伝子(HDC)を完全に欠損するノックアウトマウスを作成した。このマウスのホモ接合体は生存可能で、妊性は保たれていた。しかし離乳前後の仔マウスの全身の体毛が抜けてしまうという症状が全てのホモ接合体にて観察された。このホモ接合体成獣マウスの大脳皮質を麻酔下でイメージングしたところ、正常型マウスでは観察されるべき大脳皮質全域に波状に伝播する血管運動(infra-slow vasomotion)が失われている事を確認した。この波状に伝播する血管運動は脳脊髄液の循環に関係があると仮説をたて、第4脳室の出口である大脳槽に蛍光トレーサーを注入しその移動を追跡した。通常ならばトレーサーはクモ膜下腔の中大脳動脈と脳実質との隙間(perivascular space)に沿って大脳全体に拡散していくが、このinfra-slow血管運動に異常のあるHDCホモ接合体マウスではその拡散が著しく制限されており、大脳槽近傍でトレーサーが停滞している事が明らかになった。つまり大脳皮質全域に波状に伝播するinfra-slow血管運動はその機械的運動によって、脳脊髄液を脳全体に効率よく還流させるのに役立っていると考えられた。一方、既知のヒスタミン受容体(Hrh1)の変異体においてもトレーサーの拡散に異常があることが確認された。さらにGABA受容体beta3サブユニットがヒスタミンの受容に関わっていることが外国の報告から明らかになっており、この遺伝子の完全ノックアウトマウスを入手して調べたところ同様な異常が観察された。よって中枢ヒスタミン神経系はHrh1とGabrb3受容体タンパク質を通して脳血管運動を制御しており、そして大脳表面を波状に伝播する脳血管運動は脳脊髄液の循環の促進という生物学的役割を持つことが初めて示された。
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Analytical Chemistry
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