マウスの視床下部前腹側脳室周囲核 (AVPe)に存在する神経ペプチドQRFPを発現する少数の神経集団を特異的に興奮させると体温が数日間に渡って大きく低下し、代謝も著しく低下することを発見した。この状態は様々な点で冬眠動物にみられる冬眠に酷似しており、この冬眠様状態の誘導に関与する神経集団をQニューロン(Quiescence-inducing neurons=休眠誘導神経)、Qニューロンが興奮することにより生じる低代謝をQIH(Q neuron-induced hypometabolism)と名付けた。QIHを誘導すると、マウスは36時間にわたり食物を食べず、ほとんど動かなかった。排尿・排便もみられず、様々な生理機能が大きく低下し仮死状態に近いと考えられた。しかしQIHを経ても行動試験、各組織の病理試験においても異常は観察されず、全例が一週間ほどで自発的に回復した。この状態にはセットポイント温度の低下を伴っており、冬眠動物ではないマウスが「冬眠様状態」を誘導する神経機構を保持していることは、従来の常識を覆す発見であり、ヒトへの応用の可能性が拓けたことは世界的に大きなインパクトを与えた。
|