本研究では、オーキシン誘導デグロン法(AID法)と呼ばれるタンパク質分解法を神経科学の分野に導入し、時間解像度の高い遺伝子機能解析を可能とするツールの提供を目指した。昨年度までの我々の実験から、神経細胞の初代培養系において約90分という短い時間で標的タンパク質をノックダウンできることがわかっている。今年度は、AID法がin vivoの条件においても導入可能かどうかを検討した。まず、タグ付きのGFPとOsTIR1をウイルスベクターを用いて生後1日齢のマウスへと導入した。その2週間後、オーキシンを腹腔内投与および脳組織へと直接投与した。マウスの脳で発現したGFPの蛍光は十分強く、頭蓋の上から蛍光顕微鏡を介して目視で観察できるため、この方法によってオーキシン投与前後におけるGFP蛍光強度の変化を調べた。その結果、局所投与よりも腹腔内投与の方が効率がよく、かつ高い再現性をもってGFP蛍光減退を誘導できることがわかった。 続いて、詳細な時間分解スケールを明らかにするために、二光子顕微鏡を用いて単一細胞レベルでのGFP蛍光変化を経時的に観察した。生後1日齢のマウスに先程と同様のウイルスベクターを用いて必要な遺伝子を導入し、2週間後に外科的手術により頭蓋骨を取り除き、GFP蛍光強度の変化を観察した。その結果、GFPの蛍光強度はオーキシン投与から3時間後までに70%程度減退する様子が観察された。この結果は、生体脳における標的タンパク質の発現量の操作が、AID法によって数時間という非常に短い時間で可能であることを示唆している。ウイルスベクターによって導入されたGFPの発現量は内在性のタンパク質よりもはるかに高いと考えられるため、AID法によるin vivo条件下における標的タンパク質の分解効率は極めて高いものと推察された。
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