本研究では、ヒトに近縁なモデル動物であり、様々な脳機能を支える神経回路に関する知見が集積されているサル類において、非侵襲的に、目的とする脳部位(脳領域)のニューロンへの遺伝子導入を実現するための研究を行なっている。今年度は、静脈内投与における霊長類脳への遺伝子導入に適した改変AAVベクターの開発として、研究代表者らがこれまでの研究で開発した、マカクザル・マーモセット新生児への全脳的なニューロンへの遺伝子導入を実現する改変ウイルスベクターの更なるキャプシド改変を行い、最終的に新生児への静脈内投与における導入効率が極めて高いベクターを得ることができた。この結果を現在原著論文として投稿準備中である。また、開発した改変ベクターと、経頭蓋収束超音波照射(tFUS) を利用したマイクロバブルの振動・キャビテーションによるBBBの一過性開放術を組み合わせ、霊長類脳においてベクターの静脈内投与後、目的とする脳部位(脳領域)でのみ遺伝子導入を行う手法の開発を、スペインHM CINACとの共同研究で実施した。その結果、霊長類脳において効果的にBBBの一過性開放を誘導するパラメーターを得ることができ、効率に改善の余地はあるものの、成体マカクサルにおいてBBB開放による特定脳領域への遺伝子導入を実現した。本研究ではさらに、これらの系に細胞種特的プロモーターを応用することで、細胞種特異的な遺伝子発現を実現することに成功した。
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