研究課題
本研究では、経シナプス的に順行性方向での物質輸送を、しかも神経活動依存的に可能とする(もしくはポスト側で分子発現を誘導できる)ツールの開発を目指している。そして、その応用として、大脳皮質の姉妹ニューロン(同じ前駆細胞から生じる神経細胞群)の織り成す神経回路について検討を進めることとしている。今年度は、特にツールの開発を進めた。本研究提案後、提案した手法に加え、より簡便なシステムで、神経活動依存的に経シナプス輸送(もしくはポスト側で分子発現を誘導)を行えるツールについて検討を進めてきた。本年度は、以下の点に留意し開発を進めた。まず、アデノ随伴ウイルス(AAV)は神経細胞の順行性のトレーサーとして用いられるが、プロモーター依存的に感染をさせることが難しく、特異性を担保した標識が難しい。そこでショウジョウバエでのいわゆるtrans-tangoのシステムに着目し (Talay et al., Neuron 2017)、マウスへの応用を検討した。このシステムでは、狙った領域の神経細胞に(もしくは神経系広く)、特別な受容体Xに転写因子Yを融合させたものを発現させる。同時にこのXにリガンドが結合した場合、受容体に結合する分子にXとYの間を切断しうる分子を融合させた分子を発現させておく。するとpre側にXのリガンドを発現させることができれば、post側に作用し、Yが働き、Yにより狙った遺伝子を発現させることができる。特に、pre側に発現させるXのリガンドを神経活動依存的に発現させることができれば、初期の目的は達成できるツールとなりうる。以上の観点から実験を進めた。
3: やや遅れている
提案例も含め、経シナプス的にpost側に分子をpre側の神経活動依存的に発現させ得る系を検討している。Trans-tangoのシステムのマウスへの応用についての検討状況は以下のとおりである。まず、Trans-tangはショウジョウバエでの系であるため、マウス等に向いた分子セットを構築する必要があった。そのため、ショウジョウバエのシステムで用いる受容体Xに代わる分子の探索、作成を行った。これは、特異性を担保するためには、マウスに存在しない分子である必要があるため実施した。現在、幾つかの候補分子を得たが、バックグラウンドが高く、その改変をさらに進めている。
今後は、VEGASシステムによるG蛋白共役型受容体の改変を進め、Trans-tangoのシステムのマウスへの応用を目ざす。さらに、そのほかのシステムについても検討を行い、大脳皮質の回路解析を進める予定である。
当初の予定とは異なるベクター系の開発を進めることとなり、そのベクターデザインに時間がかかり、実際の作製開始が、研究開始時期とは同時にできなかった。加えて、実際にいくつかの実験を開始した時期に前後して、新型コロナウイルス感染症への対応のため、実験を中断せざるを得なかった。今年度は、実験開始が認められ次第、精力的に研究を実施する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Nat Commun
巻: 11 ページ: 859
10.1038/s41467-020-14697-z
Biochem Bioph Res Co
巻: 519 ページ: 626-632
10.1016/j.bbrc.2019.09.048
Front Neuroanat
巻: 13 ページ: 39
10.3389/fnana.2019.00039
http://www.anat2.med.osaka-u.ac.jp/index.html