研究課題/領域番号 |
19K22474
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
小林 和人 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (90211903)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 化学遺伝学 / 神経活動促進 / 機能回復 / パーキンソン病 / 認知症 |
研究実績の概要 |
近年、本国は「超」高齢社会に突入し、脳の老化と関連深い神経疾患の増加は喫緊の社会問題である。これらの疾患は脳内の特定の神経細胞の編成と関連し、この細胞変性を抑制する、あるいは、その機能低下を補償する技術が治療に結び付く可能性がある。最近、昆虫の興奮性イオン透過型受容体を利用して目的の神経細胞種の活動を選択的に促進させる新規の化学遺伝学的技術の開発に成功した。本年度は、リガンド前駆体を末梢血より注入し、脳内へ移行させ、標的の神経細胞を促進する技術の開発に取り組んだ。一般に、メチルエステル誘導体は血液脳関門を効率的に透過し、脳内でエステラーゼにより代謝されることが知られている。チロシン水酸化酵素遺伝子プロモーターの制御下に、ショウジョウバエのイオン透過型受容体 (ionotropic receptor/IR)の 2 種類のサブユニットIR84aとIR8aを発現するトランスジェニック(Tg)マウス系統を利用し、リガンドであるフェニル酢酸(PhAc) のメチルエステル(MPhAc) を尾静脈から注射することによって、脳内へ移行させ、PhAc に代謝された後、PhAc がノルアドレナリン神経を活性化できるかどうかをテストした。抹消投与後に、in vivo電気生理学的手法によりノルアドレナリン細胞の活動が増加すること、さらに、マイクロダイアリシス法を利用して脳内でのノルアドレナリン分泌量の増加することを確認した。また、ウィルスベクターを用いて標的の神経細胞において選択的にIR84aとIR8a 受容体遺伝子を発現させる誘導系を構築した。ドーパミンD2受容体 (D2R)遺伝子のプロモーターの制御下にCre を発現する系統を利用し、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを注入し、組換え反応を介して、目的の神経細胞に受容体遺伝子の発現を誘導する実験系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昆虫の興奮性イオン透過型受容体を利用して目的の神経細胞種の活動を選択的に促進させる新規の化学遺伝学的技術の開発に成功した。ここではショウジョウバエのイオン透過型受容体 (ionotropic receptor/IR)の 2 種類のサブユニットIR84aとIR8aを利用し、この複合体はリガンドとしてフェニル酢酸(PhAc)に選択的な興奮性応答を示す。これまでに、チロシン水酸化酵素遺伝子プロモーターの制御下にIR84aとIR8aを発現するトランスジェニック(Tg)マウス系統を作成し、脳内の特定領域(青斑核)にリガンドを注入し、ノルアドレナリン神経細胞を活性化し、この神経機能を関係する嫌悪学習行動の想起を増強できることを示した。本年度は、リガンド前駆体を末梢血より注入し、脳内へ移行させ、標的の神経細胞を促進する技術の開発に取り組んだ。フェニル酢酸(PhAc) の前駆体であるメチルフェニル酢酸(MPhAc) を尾静脈から注射することによって、Tgマウスのノルアドレナリン細胞の活動が亢進し、脳内でのノルアドレナリン分泌量も顕著な増加を示した。この結果は、前駆体が脳内で代謝されたのち、PhAcが青斑核ノルアドレナリン細胞を活性化させたことを示唆する。また、ドーパミンD2受容体 (D2R)遺伝子のプロモーターの制御下にCre を発現する系統を利用し、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを注入して、組換え反応を介して目的の神経細胞にIR84aとIR8a受容体遺伝子の共発現を誘導する実験系を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、パーキンソン病モデルラットを利用し、中脳ドーパミン神経細胞の機能亢進による運動障害の改善を試みる。TH-Creラットを用いて、ドーパミン細胞に対する神経毒である6-ヒドロキシドーパミン (6-0OHDA) を線条体に注入し、ドーパミン細胞の部分的な変性を誘導し、運動機能あるいは学習行動の低下を示すモデル動物を作成する。この動物の腹側被蓋野(VTA)へPhAcを局所注入するか、MPhAc を末梢投与することによって、ドーパミンニューロンの活性化を誘導し、コントロール群に比較して運動あるいは学習機能の低下を回復できるかどうかを解析する。ドーパミンニューロンの活性化についてはマイクロダイアリシス法により、線条体におけるドーパミンの遊離を確認する計画である。
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