ヒトは、他個体を観察し自分よりも報酬が多いと感じた場合、ときに羨望あるいは嫉妬を感じる。また、ヒトは、自分と特別な愛着関係にある他個体が別のヒトに愛情を注ぐのを見ると不快な感情、嫉妬を感じる。この外的な報酬に関し不平等を嫌う羨望様の感情、さらに特定の相手との排他的な関係性を求める嫉妬様の感情は、社会的規範・道徳性の起源に繋がる感情で、社会を構築する上で基盤となる感情と考えられる。しかし、こういった社会的な感情がどの程度生得的で生物学的基盤をもつのか明らかではない。また、この生物学的基盤を研究するための適切な動物モデルも確立していない。 本研究の目的は、その超音波発声から情動状態を推測できるラットを用い、羨望・嫉妬様行動の動物実験モデルを構築し、神経機構の解明に繋げることであった。 実験者がラットに優しく撫でるという刺激を繰り返すと、撫でられたラットは次第に撫で刺激に対し快の情動発声を示すようになった。この実験者による接触刺激を社会的報酬とし、この動物の目前で他のラットに対し快の接触刺激を加えた。すると、これを観察した動物は31 kHzの特殊な超音波発声を示した。目の前に実験者がいるだけではこの超音波発声は出さなかった。従って、ラットは社会的報酬の不公平な状況を区別していると考えられる。次に、社会的親和性に重要な働きをしていることが示されているオキシトシン受容体が重要かをオキシトシン受容体アンタゴニストを用いて検討した。オキシトシン受容体アンタゴニストを投与しても、超音波発声は有意には変化しなかった。このデータは、ラットは社会的報酬の不公平性を識別し31 kHzの特殊な超音波発声をすること、この発声にはオキシトシン受容体は不可欠ではないことを示唆している。
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