研究課題/領域番号 |
19K22480
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
斎藤 芳郎 東北大学, 薬学研究科, 教授 (70357060)
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研究分担者 |
堤 良平 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50435872)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス / 膵β細胞 / インスリン抵抗性 / 骨格筋 / レドックス制御 / セレノプロテイン / 硫黄代謝 / セレン代謝 |
研究実績の概要 |
過酸化水素などの活性酸素を還元・無毒化する抗酸化システムは、細胞の生存維持に重要な役割を担っている。しかし、近年応募者の研究から、過剰な抗酸化・還元作用による生体障害(以下、還元ストレス)が、2型糖尿病の発症・進展に深く関与することが明らかとなってきた。しかし、その詳細は明らかでは無く、“還元ストレス”を定義づける細胞応答も明確では無い。そこで本研究では、還元ストレスを負荷した細胞および臓器について、遺伝子発現、タンパク質発現および代謝物量を網羅的に解析し、過剰な還元状態における特徴的な細胞応答を探索・同定する。本研究により、還元ストレス応答を分子レベルで明らかにし、“還元ストレスバイオマーカー”を同定して、還元ストレスの生物学的概念を確立する。本研究から“酸化と還元のバランスのとれた状態が重要である”というパラダイムシフトを目指す。本研究を軸に“酸化は悪、還元は善”で築かれた学術体系を大きく変革し、様々な疾患や生活習慣病、老化に対する新たな学術大系「還元ストレス学」を確立する。 本年度は、膵β細胞モデルMIN6について、過剰セレノプロテインP添加により還元ストレス状態を作成し、抗酸化システムの変化および代謝物の網羅的解析を行った。抗酸化システムでは、グルタチオンや硫黄代謝に関わる酵素の変化が認められた。小胞体内ではレドックス制御を担うと考えられるセレノプロテインの変化が認められた。また、網羅的代謝物解析からも硫黄代謝の変化が認められ、還元ストレスにおけるセレン・硫黄代謝の変化の関与が示唆された。次年度以降、さらなる解析を進めるとともに、これらの変化の意義について関連因子のノックダウンから詳細を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の異動に伴い、実験系を新たに東北大で構築する必要性が生じたため、必要な機器類の調達や試薬の確保、コントロール実験等に時間がかかり、一部遅延が認められたが、網羅的代謝物の結果も得られ、全体的にはおおむね順調に進展していると思われる。次年度は、これまで構築した実験系を進めると共に、担当する人員を増やすなどして、効率よく進められるように工夫する。
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今後の研究の推進方策 |
過剰セレノプロテインP処理によるセレン・硫黄代謝の変化を明らかにするとともに、細胞障害との関連性を各種阻害剤やsiRNAにより実証する。培養細胞で得られた知見を、in vivoでの検討へと進め、糖尿病モデル動物など、高セレノプロテインPを来す実験モデルにおいて、培養細胞と類似の反応が起こっているか検証する。骨格筋モデルC2C12でも類似の反応が起きているか検証し、膵β細胞での知見について一般化できるか検討する。 セレノプロテインPと類似の還元ストレスが認められたジチオスレイトールなどの還元剤・抗酸化物質の過剰量の効果を検証する。網羅的解析から、還元ストレス応答に関与する候補分子を抽出し、siRNA法により“還元ストレス応答関連分子”を同定する。以上、還元ストレス負荷細胞における生物学的変化を明らかにし、共通する細胞応答を分子レベルで解明する。さらに、還元ストレスに特徴的なマーカー分子“還元ストレスバイオマ ーカー”の同定に向けて、還元ストレスに共通する細胞応答を探索する。培養細胞系での解析で得られた知見を、過剰セレノプロテインP投与マウスに適応し骨格 筋・膵臓等において、培養細胞系で認められた細胞応答が、in vivoでも観察されるか、還元ストレス関連分子・バイオマーカーを軸に検証す る。さらに、過剰SePに対する生体応答解析を全身の臓器へと展開し、各臓器で共通の細胞 応答が観察されるか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、予定していた学会が中止になり旅費等、一部の計画に変更が生じたため。
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備考 |
研究内容及び研究成果を研究室のHPで公開している。定期的にアップデートして、最新の情報を公開している。
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