研究課題
本研究目的は、光で駆動する人工触媒を利用し、細胞内アミロイドがもたらす機能を同定することである。より具体的には、様々な生体分子が共存する細胞内環境において、タウ、α-シヌクレインなどのアミロイドに対し選択的に酸素化反応を進行する光触媒を開発し、これを利用することにより、時空間を制御して細胞内アミロイドがもたらす病態機構や神経機能の同定を目指す。タウアミロイドに対する新たな光酸素化触媒としてboron-dipyrrometheneを母骨格とした光触媒を創製した。本触媒のヨウ素原子による重原子効果が酸素化活性に重要な役割を果たしていたことに加え、ホウ素上のトリフルオロメチル基によって触媒の光安定性が増大された。本光触媒は、リコンビナントタウに対して高収率で酸素化を促進した一方、凝集していない単量体タウに対しては、触媒の電子移動機構に基づき酸素化活性を発現しなかった。すなわち、この触媒は、クロスβシート構造を有するタウアミロイドに対して選択的に酸素化するスイッチ機能を持っている。また、この光触媒を用いて、細胞間伝播機構において核として働くタウアミロイドを酸素化することにより、培養細胞内における新たなタウのアミロイド形成誘導が抑制されることが明らかになった。さらに、細胞内タウアミロイドに対するプローブ分子骨格をもとにした新たな光酸素化触媒を設計し、本触媒が細胞膜透過を経て細胞内に存在するタウアミロイドを酸素化可能であるという知見を得た。
2: おおむね順調に進展している
タウを効率的に酸素化可能な触媒を同定し、酸素化を受けたタウが伝播能を失うことも明らかにされた。さらに細胞内で機能する光酸素化触媒の同定にも成功していることから、順調に研究が進展していると考えられる。
細胞膜や血液脳関門を通過可能で、細胞内のタウ及びα-シヌクレインを効率的に酸素化することのできる触媒を同定する。そして、これらの触媒を利用することにより、細胞内アミロイドに関する伝播機構や神経機能を解析する。
触媒合成に関する経費が想定より抑えられたため。翌年度、生物系実験に必要な試薬購入などに使用する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
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