研究実績の概要 |
令和3年度は、前年度までに見いだした、核内プロゲステロン受容体(PR)に対してアンタゴニスト活性を持つベンゾトリフルオリド(CF3Ph)誘導体を軸として、化合物の幅広い構造展開と、構造物性相関およびPRに対する構造活性相関を検討した。当年度、ホスフィンアミドの合成法を精査することで、種々のホスフィンアミド誘導体を系統的、効率的に合成することが可能となった。具体的には、N,P-ジフェニルホスフィンアミドを基盤とし、N,P,P-トリフェニルホスフィンアミド誘導体のほか、前年度までは難渋していたP,P-ジアルキル-N-フェニルホスフィンアミド誘導体の合成にも成功した。さらに、基本となるP=O構造に加え、P=S構造を有するホスフィンチオアミド誘導体も系統的に合成した。全ての合成化合物について、疎水性パラメータLogPを算出し、ホスフィンアミドの疎水性を、アミドやスルホンアミドとの比較において定量的に評価した。また、ホスフィンチオアミドが、対応するホスフィンアミドよりも高い疎水性を示すことを定量的に示した。化合物の活性評価により、ベンゾトリフルオリド構造を有するホスフィンアミドが総じてPRアンタゴニスト活性を示すこと、さらにホスフィンチオアミド誘導体が高い活性を示すことを見いだした。高活性を示したホスフィンチオアミド誘導体とPRのドッキングシミュレーションを行い、ホスフィンチオアミドが疎水性置換基のプラットフォームとして機能し、かつ水素結合ドナー性を持つことが高活性に寄与していることを見いだした。以上のように、ホスフィンアミド誘導体の構造物性相関を明らかにしたほか、ホスフィンチオアミド構造を有する高活性PRアンタゴニストの創出に成功した。ホスフィンアミドは創薬化学においては未開拓の化学種であるが、本研究によって医薬候補化合物の構造展開の一つの選択肢としての可能性を明らかにした。
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