研究課題/領域番号 |
19K22490
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹内 英之 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80361608)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | O-グルコース糖鎖 / Notch シグナル / 糖転移酵素 / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
Notch シグナル伝達経路は、進化的に非常によく保存された、多細胞生物個体における細胞の運命決定に重要な役割を果たす細胞間情報伝達経路である。例えば、ショウジョウバエでは神経細胞や翅の発生分化、また、哺乳類においては、発生過程の体節形成、胸腺における T 細胞分化や腸管上皮幹細胞の自己複製と分化など、様々な生物学的プロセスを制御している。また、Notch シグナルの破綻は癌の発生、悪性度の進展、転移に関わっている。多くの種類の癌で Notch シグナルの異常な亢進が観察される一方、急性骨髄性白血病や扁平上皮癌など、ある種の癌では、Notch シグナルの低下が発癌と悪性度の進展に関与している。 研究代表者は、Notch の細胞外部位における糖鎖修飾が、その活性化に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。O-グルコース糖鎖の付加は、Notch の活性化に必須である一方、O-グルコース糖鎖のキシロースによる伸長は、Notch の活性化を抑制する。肺、食道、および頭頸部由来扁平上皮癌を含む、多くの癌で XXYLT1 の増幅がみられ、このことが発癌に関与している可能性がある。本研究では、O-グルコース糖鎖合成を担う糖転移酵素に照準を定め、それらの低分子阻害薬を探索する。 このような研究の目的を達成するために、本年度は、酵素の構造情報をもとに、in silico スクリーニングを行い、in vitro 酵素阻害活性測定を行った。また、化合物ライブラリーを用いた阻害剤の探索のためのアッセイ系の開発も並行して行った。 Notch 受容体機能の糖鎖修飾による制御機構に関する原著論文3 報、並びに、総説 2 報の発表に貢献した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、POGLUT1 とその受容基質ヒト凝固因子 IX 由来の EGF ドメイン (hFA9) との複合体 、また、XXYLT1、Xyl-Glc-二糖で修飾された hFA9 と供与基質 UDP-Xyl とのミカエリス複合体の構造と糖転移反応の解析を報告している。本年度、酵素の構造情報をもとに、FINDSITEcomb を用いて in silico スクリーニングを行い、候補化合物を購入し、in vitro 酵素阻害活性測定を行ったが、POGLUT1 の活性をw有意に阻害する化合物の同定には至らなかった。 並行して、東京大学創薬機構の支援を受け、化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングを開始した。ハイスループットスクリーニングのための酵素アッセイを構築するためには、糖転移酵素、UDP-グルコースなどのドナー糖ヌクレオチド、EGF リピートなどのアクセプターからなる in vitro での糖鎖付加反応系を確立する必要がある。HEK293T 細胞に発現ベクターを一過性導入し、培地を採取し、Ni-NTA アフィニティークロマトグラフィーで糖転移酵素を精製することにより、組換え POGLUT1 および XXYLT1 タンパク質をミリグラム量作製した。また、大腸菌発現系を用いて、O-グルコースコンセンサス配列を有するEGFリピートをミリグラム量作製し、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーおよび逆相(RP)HPLCによりさらに精製した。最後に、RP-HPLCおよびLC-MSを用いた生成物分析により、EGFリピートがin vitro での糖鎖付加反応で糖転移酵素POGLUT1によりO-グルコース糖鎖で修飾されていることを確認した。 さらに、三次元立体構造解析のためのグルコシドキシロース転移酵素 GXYLT1 の作製も上と同様の方法で行った。
|
今後の研究の推進方策 |
キシロース転移酵素 XXYLT1 についても、POGLUT1 と同様に、酵素と受容基質との複合体の構造情報をもとに、FINDSITEcomb を用いて in silico スクリーニングを行い、候補化合物を購入し、in vitro 酵素阻害活性測定を行う。必要に応じて、候補化合物の選定基準を見直し、阻害活性を有する化合物の同定に繋げる。 初年度に作製した基質と酵素を用いて、化合物ライブラリーを用いたハイスループットなスクリーニング系を立ち上げ、Notch受容体を修飾する糖転移酵素 POGLUT1、GXYLT1、GXYLT2、XXYLT1 の阻害剤候補を探索する。 阻害が見られた化合物について、培養細胞を用いた Notch リポーターアッセイを行う [Rana et al. 2011 J Biol Chem]。Jafar-Nejad 博士がショウジョウバエ個体を用い Notch シグナルに対する影響を調べる [Lee et al. 2017 Plos Genetics]。 既報と同様に、上で作製した GXYLT1 の基質との複合体の結晶構造解析を遂行する [Yu、 Takeuchi et al. 2016 Nat Chem Biol] [Takeuchi (correspondence) et al. 2015 Nat Chem Biol]。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた化合物ライブラリーを用いた Notch 受容体を修飾する糖転移酵素の阻害剤の探索の開始に、予想よりも長い時間がかかった一方で、糖転移酵素の反応基質である上皮増殖因子様 (EGF) ドメインタンパク質の種類の選定に、予想よりも少ない数の施行で、スクリーニングに適したものを見つけることができたために、結果として、当該助成金が生じた。 翌年度分として請求した助成金と合わせ、今後、反応効率の良い EGF 基質を用いた糖転移酵素の阻害剤探索を加速させていく計画である。
|