Notch シグナル伝達経路は、進化的に非常によく保存された、多細胞生物個体における細胞の運命決定に重要な役割を果たす細胞間情報伝達経路である。例えば、ショウジョウバエでは神経細胞や翅の発生分化、また、哺乳類においては、発生過程の体節形成、胸腺における T 細胞分化や腸管上皮幹細胞の自己複製と分化など、様々な生物学的プロセスを制御している。また、Notch シグナルの破綻は癌の発生、悪性度の進展、転移に関わっている。多くの種類の癌で Notchシグナルの異常な亢進が観察される一方、急性骨髄性白血病や扁平上皮癌など、ある種の癌では、Notch シグナルの低下が発癌と悪性度の進展に関与している。 研究代表者は、Notch の細胞外部位における糖鎖修飾が、その活性化に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。O-グルコース糖鎖の付加は、Notch の活性化に必須である一方、O-グルコース糖鎖のキシロースによる伸長は、Notch の活性化を抑制する。肺、食道、および頭頸部由来扁平上皮癌を含む、多くの癌で XXYLT1 の増幅がみられ、このことが発癌に関与している可能性がある。本研究では、O-グルコース糖鎖合成を担う糖転移酵素に照準を定め、それらの低分子阻害薬を探索する。 タンパク質O-グルコース転移酵素POGLUT1を対象として、約1万化合物を含む化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングを実施した。POGLUT1活性を濃度依存的に阻害する分子を数種類、同定した。さらに、キシロース転移酵素の酵素活性が、同様のアッセイ系で測定できることも確認され、ハイスループットスクリーニングのための酵素と基質の大量調製を行った。 Notch受容体機能の糖鎖修飾による制御機構に関する原著論文3報、並びに、英文総説1報の発表に貢献した。
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