研究実績の概要 |
令和2年度は、ボロン酸とカルボン酸を同一分子内に有する触媒ではなく、同一分子内にボロン酸を二つ有するビスボロン酸触媒を合成し、その触媒活性を検証した。すなわち、(戦略1)ビスボロン酸として、同一sp3炭素上に2つのボロン酸が置換したgem-ビスボロン酸誘導体と(戦略2)ベンゼン環の1,2-位あるいはビフェニルの1,1'-位に2つのボロン酸が置換した芳香族ビスボロン酸の計3種類の触媒合成を実施した。その結果、戦略1のビスボロン酸触媒の合成には成功し、種々のカルボン酸とアミンのアミド化反応を促進する触媒作用を有していることを確認した。特にアミノ酸誘導体同士のペプチド形成においては、従来のアリールボロン酸の触媒活性を遥かに超える加速効果が観測され、65°C程度の加熱は必要であるが5 %molの触媒量で反応は進行する。また課題であるエピメリ化については、使用するアミノ酸に依存する面もあるが、若干のラセミ化が進行しており、カルボン酸よりもアミン側がラセミ化する傾向にある。また詳細な反応機構の解明は現在進行中であるが、ボロン酸触媒に配位している2つのカルボン酸のうち2つのホウ素に同時に配位できるのは1つのみであり、対称な二量体錯体を形成するアリールボロン酸とは異なる活性化機構が関与している可能性が高い。またVTNA法を用いた速度論解析から、反応速度はカルボン酸に対して約0.3次、アミンと触媒はともに1次であったことから、カルボン酸-触媒2:1錯体へのアミンの付加あるいは水の脱離が律速段階であることが示唆されている。 また戦略2の1,1'-ビフェニルビスボロン酸の合成にも成功したが、反応溶媒に対する触媒の溶解性に問題があるためかgem-ビスボロン酸を超える触媒活性を見出すには至っていない。vic-ビスボロン酸に関しては合成は完了しておらず、今後も継続してゆく。
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