研究課題
がんのゲノム不安定化により生じるEML4-ALK融合型キナーゼは,野生型ALKキナーゼとは異なる細胞内局在を示し,本来活性化しないはずのシグナル経路を活性化させることでがんの悪性化に寄与している.このことは,融合型キナーゼのみが活性化する下流カスケードを明らかにできれば,それをターゲットにした新たながん治療薬が開発できる可能性を示している.本研究では,野生型および融合型それぞれのキナーゼが細胞内で直接基質とするタンパク質を「細胞内光クロスリンク法」という独自手法を用いて捕捉・同定する.これにより,融合型キナーゼがダイレクトに活性化するシグナルカスケードを明確に捉えるアプローチを確立し,新規治療標的の発掘を目指す.細胞内光クロスリンク法によるキナーゼの基質探索では,研究対象とするキナーゼの基質結合部位近傍に細胞内で光架橋性人工アミノ酸を特異的に導入しておき,細胞への光照射をトリガーとして,対象キナーゼに直接結合している因子を共有結合で捕捉することを目指す.本年度には,ごく短時間で終了するキナーゼ-基質間の相互作用を捕捉・同定するためのキナーゼの改変,および,質量分析による相互作用因子同定効率を改善するための施策を行った.具体的には,キナーゼ-基質間の相互作用様式について多くの知見が得られているEGFR-SHCをモデルとし,それらの相互作用をクロスリンクで捕捉できるかを調べた.さらに,光架橋性人工アミノ酸の構造最適化を行なった.
2: おおむね順調に進展している
1. EGFR-SHC間のクロスリンク実験EGFR-SHC複合体の結晶構造を元に,EGFRの基質結合部位近傍に光架橋性人工アミノ酸を導入した変異体を複数準備し,細胞内で両者がクロスリンクできるかどうかを調べた.しかしながら,キナーゼ活性を持つEGFRに対して人工アミノ酸を導入した場合には,SHCとのクロスリンク産物を得ることはできなかった.これは,SHCがリン酸化を受けると同時にEGFRの基質結合ポケットから離れることが原因であると想定される.2. 光架橋性アミノ酸の構造最適化細胞内光クロスリンク法では,相互作用する2つのタンパク質が共有結合により架橋されるが,架橋形成部位のペプチドはH型の構造を取り,質量分析による解析を困難にする.そこで,穏和な条件で特異的に切断されるリンカー構造を持った光架橋性アミノ酸を新規に設計・合成した.その結果,この人工アミノ酸をタンパク質に部位特異的に導入すること,水溶液中でリンカー部分を切断することに成功した.
リン酸化活性を抑制する,或いは,基質結合状態を保持するようEGFRを改変し,SHCとの相互作用をクロスリンクにより捕捉する.また,新規に合成した光架橋性アミノ酸を用い,タンパク質複合体の架橋形成部分が質量分析により明らかにできるかを調べる.これにより,キナーゼ-基質間の直接的な相互作用の捕捉ならびに質量分析による同定作業の効率化を達成する.
当初,クロスリンク法により捕捉したキナーゼの基質候補タンパク質を大量精製して質量分析により同定する予定であり,これに約1500千円の予算を充当していたが,クロスリンク反応条件の最適化が完了せず,実行できなかった.この計画は次年度に実行する.
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Cell Reports
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Proceedings Japan Academy. Series B Physical and Biological Sciences
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