研究課題/領域番号 |
19K22497
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辻川 和丈 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (10207376)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 発生 / 老化 / RNA修飾 / tRNA |
研究実績の概要 |
RNAは多様な修飾を受けていることが知られている。また最近RNA塩基のメチル化がタンパク質の翻訳効率上昇に関わることも明らかとなってきている。よって発生や成長、老化においてRNAの修飾がダイナミックに変化することが推測される。そこで胚発生、成体マウスの各臓器におけるRNA修飾を質量分析計を用いた独自技術により解析した。3,5,7,26,52,78週齢のC57BL/6マウスの各臓器における27種のRNA修飾体を測定した結果、大脳、小脳、肺、肝臓、腎臓、脾臓において週齢に伴う5-hydroxymethylcytosine (hm5C)の顕著な減少が認められた。またそのhm5Cは200ヌクレオチド以下のRNA画分において検出された。次に個体の発生過程におけるhm5Cレベルを測定した。その結果、E0.5からE1.5までhm5Cの増加が見られたが、その後低下し、E4.5から新生児まで低レベルであった。次にヒト線維芽細胞の分裂回数とhm5Cレベルとの相関を調べた。その結果200ヌクレオチド以上のRNAにはhm5Cの顕著な減少は認められなかったが、200ヌクレオチド以下のRNAにおいて、分裂回数の増加とともにhm5Cレベルの有意な低下が見られた。また同時に細胞老化マーカーである酸性βガラクトシダーゼ増加も認められたことから、hm5Cと細胞老化との関連性が示唆された。さらにヒト主要臓器においてもhm5Cの存在を確認した。200ヌクレオチド以下のRNA画分には主にtRNAが含まれる。そこでRNAからtRNAを精製し、RNAの修飾を検出したところhm5Cが確認された。 以上の結果より、細胞や個体の老化においてtRNAにおけるhm5Cの存在が、tRNAの安定性やタンパク質翻訳において重要な役割を演じていることが推測される。次年度にはその修飾の意義や修飾制御分子を明らかにすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では「個体の発生から老化に至る過程では、エピジェネティクスによる制御だけではなく、RNAの後天的修飾のダイナミックな変化と、それに伴うタンパク質の翻訳制御機構が機能している」との仮説を証明することも目標設定した。その目標に対し、1)受精卵から胎児、成体から老化マウスを用いてRNAの修飾変動の解析、(2)免疫沈降-次世代シークエンサー解析による修飾RNAの同定(3)RNA修飾とタンパク質発現制御との関連性の解析(4)ヒト臨床検体を用いたRNA修飾の分析、を行うことの計画を立てた。本年度この計画内の(1)(4)が完了し、さらに(3)に関しても予備検討を進めることできたことから、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
計画内で、免疫沈降-次世代シークエンサー解析による修飾RNAの同定、RNA修飾とタンパク質発現制御との関連性の解析に焦点を当てる。hm5CはDNAにも存在することが知られており、その抗体も利用可能である。よって抗hm5C抗体を用いてtRNAを免疫沈降し、次世代シークエンサーによりhm5C含有tRNA等を同定する。また若齢ならびに老齢マウスのtRNAを精製し、hm5Cのレベルとin vitro翻訳系によるタンパク質翻訳効率との関係を探る。DNAではhm5Cは5-methylcytosineからTen-eleven translocation (TET)の触媒作用により誘導される。そこでRNAのhm5CもTETの制御を受けているのか、発生から老化における関係も明示する。これらの検討により、「個体の発生から老化に至る過程では、エピジェネティクスによる制御だけではなく、RNAの後天的修飾のダイナミックな変化と、それに伴うタンパク質の翻訳制御機構が機能している」との仮説を証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は次世代シークエンサーを用いたhm5C含有RNAの本体同定とその機能解明を行う。そのための経費が必要となる。さらにその成果を論文としてまとめ、さらに学会報告も実施する予定である。このような理由から次年度使用額が生じる。
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