研究課題
申請者は一酸化窒素(NO)が小胞体ストレスを惹起することを世界で初めて証明し,その標的が新生タンパク質成熟機構に必須なタンパク質ジスルフィド異性化酵素(PDI)であることを特定した.さらに,パーキンソン病やアルツハイマー病のヒト死後脳において,PDIのNO酸化修飾(S-ニトロシル化)体を認めた.PDIの酵素活性はS-ニトロシル化修飾によって著しく抑制され,変性タンパク質の蓄積に引き続き,持続的な小胞体ストレスを惹起した.興味深いことに,NOはUPRのセンサー分子として機能するIRE1αも同時にS-ニトロシル化して不活性することを証明した.IRE1α-XBP1経路はシャペロンなどの誘導を介して抗細胞死効果を発揮するが,NOによるこの経路の遮断は細胞をより脆弱にすることが示唆された.したがって,IRE1αのエンドヌクレアーゼ活性を阻害することなく,酸化修飾のみを特異的に抑制する化合物はNO修飾に起因するUPR機能消失依存的な疾患に有効である可能性がある.そこで,薬理学的にも新たなカテゴリーに属する分子特異的酸化修飾部位阻止薬を単離することにチャレンジし,その薬理学的特性,特にパーキンソン病治療薬シーズを目指した抗細胞死効果について検証することを目的とした.約400万種の化合物ライブライーを用いてin silicoスクリーニングを展開し,当該Cysならびに近傍に結合する候補化合物100種をピックアップした.これらに対して,S-ニトロシル化阻害能とIRE1α酵素活性阻害作用を調べた.その結果,有力な1つの化合物の特定に成功した.
1: 当初の計画以上に進展している
In silicoスクリーニングを実施し,候補(リード)化合物の選定に成功した.一般に,酵素活性阻害薬あるいは受容体アンタゴニストの探索は比較的容易であるが,タンパク質酸化を特異的に抑制する化合物の単離は困難であり,作出には至っていない.本化合物は,当該システイン残基に直接結合することが予想されており,実際に,NOによるIRE1の酸化(ニトロシル化)ならびに酵素活性阻害効果を減弱することを確認した.このような性質を有する化合物はこれまでに報告されておらず,新規知見である.
上記に示したリード化合物は,濃度依存性はあるものの,その作用には高濃度(数十μM)を必要とすることがわかっている.また,分子特異的であるか否か,検討は十分にされていない.したがって,今後は,この化合物をリードとして,再度in silicoスクリーニングを実施し,新たな候補化合物(誘導体あるいは類似構造体)およそ150種に対して,より低濃度(μM以下)で作用する化合物の選定を実施する.さらには,NOによるIRE1SNO化に対する阻害能と酵素活性阻害抑制効果を細胞レベルで明らかにする.また,分子特異性を確認するために,これまでに報告されてきたS-ニトロシル化タンパク質に対する影響を検討する.このような,最適化を進める一方,簡便な有機合成法を考案し,大量合成が可能か否か調べる.また,化合物の水溶性を向上させるような誘導体の構築も進める.
第一次in silicoスクリーニングは化合物の絞り込みには非常に有効ではあるが,最終阻害薬の単離まで到達することは困難であった.一般的には,第一次スクリーニングで得た結果(化合物の骨格)や情報を元にして,さらに第二次スクリーニングを実施する必要がある.初年度において,出発材料となるリード化合物候補が得ることに成功した.この結果を確実にすることが,最適化において重要なステップとなる.したがって,この候補化合物の特性や再現性を慎重に進めたため時間をかけた.この結果を踏まえて,次年度はさらなるスクリーニングを展開し,候補化合物の最適化を図る予定としており,助成金を化合物購入や合成に使用する予定となっている.
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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