研究実績の概要 |
脳の脂肪酸組成が他の臓器と大きく異なることは古くから良く知られているが、その差異が生じるメカニズム、および、生物学的意義の全貌は今なお未解明である。我々は、脳内に微量に存在し、リーリン欠損マウスでその量が顕著に増加するとある不飽和脂肪酸が、神経細胞の突起を分岐・伸長させることを見いだした。そのメカニズムを解明するため、初代培養神経細胞を様々な条件で培養し、膜の流動性を反映する蛍光プローブを用いて流動性イメージングを行った。その結果、分岐部では流動性が高くなっている可能性を見いだした。上記の脂肪酸添加によって、そのような部位も増加する傾向にあった。長期培養によってスパイン数が増加するか否かを検討したところ、意外なことに大きな差はなかった。野生型マウスおよびリーリン欠損マウスから後シナプス画分を生化学的に調整し、リピドミクス解析を行ったところ、この画分では様々な脂質組成の変化が見られたが、上記の脂肪酸の含有量には変化がなかった。よって、リーリンの脂肪酸組成への影響と、シナプス数あるいは可塑性への影響(既に多くの論文がある)は、異なる機構によって独立に制御されている可能性が考えられた。特に前者については全く知られていない未知の経路の存在が示唆された。 リーリンについては、欠損マウスに加え、二種の機能増強マウス(J. Neurosci. 37, 3181 (2017); Sci. Rep. 10, 4471 (2020))を樹立したので、現在これらマウスの脳および神経細胞における脂質組成の解析を行っている。
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