研究実績の概要 |
我々は、マウスの乳腺房を形成する乳腺上皮細胞の間隙に、ユニークなリンパ球「乳腺IEL (intraepithelial lymphocyte)」が多く存在することを見出した。乳腺IELはCD8 T細胞とgamma/delta T細胞からなり、Granzyme A, B等のタンパク質を恒常的に高発現する。Granzymeは、標的細胞のアポトーシス誘導や細菌の殺傷に寄与するプロテアーゼの一種であり、乳腺の管腔側に放出され、実際にマウスの乳中に検出された。本研究では、乳腺IELが抗菌作用因子を分泌することによって乳中の細菌叢と新生児の腸内細菌叢を制御する、という新規の母子免疫機構を想定し、この仮説を実験的に検証することを目的とする。 マウスの乳腺から乳腺IEL(CD8+ IELおよびgamma/delta IEL)をソーティングし、mRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行った。乳腺IELは、脾臓のCD8 T細胞やgamma/delta T細胞とは異なる遺伝子発現パターンを示したが、遺伝子発現や細胞表面マーカーが腸管IELと類似していた。一方、乳腺IELは多くのNK細胞受容体を高発現しており、これは腸管IELにはみられない特徴であった。従って、乳腺IELはNKT細胞の一種と定義できるが、通常のNKT細胞とはケモカイン受容体やサイトカイン受容体の発現が全く異なっており、新規のNKT細胞集団といえる。これらの遺伝子発現情報をもとに、乳腺IELに高発現するエフェクター分子としてGranzymeA,B,Cに着目し、CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いてGranzymeA,B,C遺伝子を同時に欠損するマウスを作製した。GranzymeA,B,C欠損マウスでは正常なT細胞分化がみられたが、乳腺IELの分化と機能については今後の課題である。
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