研究課題/領域番号 |
19K22511
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 幸織 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (10645584)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 依存症 / 認知バイアス / 意思決定 / 情動機能 / 攻撃性 / 自己認識 / 前頭前皮質 / 進化 |
研究実績の概要 |
本研究では、行為嗜癖または行為依存症(Behavioral Addiction)と呼ばれる一連の症状を有する患者を対象に、その行動学的特性ならびにそれに関わる脳神経基盤の解明、さらにはその進化的側面からの理解を目的とする。初年度となる本年度は、まず初めに、認知バイアス、攻撃性を主とする性格特性、ならびにストレス・うつ症状・不安といった負の情動機能に着目し、これらの項目に関連する質問紙と心理課題の作成、光トポグラフィーを用いた大脳皮質活動計測のための機器のセットアップを行った。愛知県大府市にある特定医療法人共和会・共和病院での行為依存症治療を専門とするスタッフ達との共同研究を立ち上げ、入院患者とその比較対象として健常者を対象にこれらの質問調査と心理課題ならびに課題遂行中の大脳皮質活動計測を、現在までに16名の行為依存症と診断された患者(うち、病的窃盗10名、性的嗜好障害5名、病的賭博1名)と31名の健常者において実施した。これらの調査から、①行為依存症患者では、確率的な事象の判断に問題があり、リスクをより取りやすいこと、またそのような問題が、右半球の前頭前皮質活動の減弱に関連していることが見いだされた。また、②行為依存患者は、ストレス、うつ状態、不安等の不の情動が健常者よりも強く、これらは神経症的傾向性格の強さと相関関係があることが見いだされた。さらに、③行為依存患者は自身を健常者よりも強い攻撃性があると認識している一方で、客観的な評価ではそのような強い攻撃性はみられず、行為依存症患者と健常者の攻撃性には違いがみられないこと、その一方で、行為依存症患者においては、自身の攻撃性の評価と客観的な評価との間に負の相関関係がみられることから、自己認識に問題があることが見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに研究は順調に進んでおり、16名の行為依存症と診断された患者(と31名の健常者において心理課題等を実施できた。これらの研究結果は、2つの国際学会、1つの国内学会で成果発表を行い、3つの原著論文を作成、現在、専門誌に投稿中であり、当初の計画以上に進行していると言える。しかし、その一方で、2020年2月から新型コロナウイルス流行のため、研究実施場所となっている共和病院へのアクセス制限等で、研究を一時中断している状況にあり、4月末現在、いつ再開できるかはまるでわからず、今後の進行の遅れが懸念されることから、総合評価としておおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には次の2つを行う予定である。①依存症患者と健常者から採血したサンプルを用いて、血中モノアミン濃度の計測を高速液体クロマトグラフィーを用いて行い、解析する。また、サンプルからDNAを抽出し、マイクロアレイを用いた全ゲノム網羅的メチル化解析を行う。また、②バーチャルリアリティーをアイトラッキング計測と光トポグラフィーによる大脳皮質活動計測と組み合わせ、行為依存に関連する環境や状況においてどのような生体活動の変化が依存症患者でみられるかを調査、解析する。しかし、2020年2月から新型コロナウイルス流行のため、研究実施場所となっている共和病院へのアクセス制限等で、研究を一時中断している状況にあり、4月末現在、いつ再開できるかはまるでわからず、これら今後の進行の遅れが懸念される。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究参加者から採血したサンプルを用いた遺伝学的・生化学的解析の実施がコロナウイルス流行のあおりをうけ遅れたため、次年度へと繰り越しとなったため、その分の使用額が残ったため。この繰り越し額は、これらの実験実施を次年度中に行い全額執行する予定である。
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