研究課題
異数性モザイクとは、染色体数の異なる細胞群が同一個体に混在する病態であり、とくに正常核型とトリソミーが混在した個体をモザイク・トリソミーと呼ぶ。モザイク・トリソミーは、減数分裂の染色体不分離によって生じたトリソミーの受精卵が、卵割の過程で一部の細胞において余剰の染色体が排除され正常核型となる「トリソミーレスキュー」が生じることに起因する。一般的にモザイク・トリソミーの表現型は、フル・トリソミーに比べて軽く、また、正常核型細胞のモザイク頻度が高いほど表現型が軽いと考えられている。さらに興味深いことに、モザイク・トリソミーのモザイク率が発生組織や時期によって変動する現象が報告されており、正常核型細胞とトリソミー細胞との競合が臨床像を決定する機構の存在が示唆される。しかし、正常核型細胞とトリソミー細胞との細胞競合現象については不明な点が多い。最近、トリソミーレスキュー現象が、細胞の初期化によって誘導されることが報告されており、本申請予備実験においてもフル・トリソミー21由来皮膚線維芽細胞の初期化によって正常核型iPS細胞クローンの単離に成功している。そこで、ゲノム編集技術を用いて蛍光標識したトリソミーiPS細胞とトリソミーレスキューiPS細胞をタイムラプスイメージングして、細胞増殖相と分化相における正常核型細胞と異数性細胞との細胞競合の実体を明らかにすることを計画した。これまでに、非相同末端結合を用いた高効率な遺伝子ノックイン技術であるCRISPR/ObLiGaRe法を用いて、トリソミーiPS細胞およびトリソミー・レスキューiPS細胞のセーフハーバーサイトAAVS1遺伝子座に、核移行シグナルを付加したEGFPまたはRFP遺伝子を1コピーずつノックインした。これにより、遺伝的背景を厳密に揃えた状態で異数性モザイク集団の細胞競合実験系を構築した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、非相同末端結合を用いた高効率な遺伝子ノックイン技術であるCRISPR/ObLiGaRe法を用いて、トリソミーiPS細胞およびトリソミー・レスキューiPS細胞のセーフハーバーサイトAAVS1遺伝子座に、核移行シグナルを付加したEGFPまたはRFP遺伝子を1コピーずつノックインした。遺伝的背景を厳密に揃えた状態で異数性モザイク集団の細胞競合実験系を構築したことから、研究はおおむね順調に進展していると考えられた。
異数性モザイク集団における細胞競合現象の普遍性を検証するために、ダウン症候群に加えて、トリソミー13(パタウ症候群)、トリソミー18(エドワーズ症候群)患者由来の初代線維芽細胞の初期化を行い、各iPS細胞の核型解析を行う。正常核型細胞クローンを少なくとも2クローン以上単離するすることを目指す。
初年度は、トリソミーiPS細胞およびトリソミー・レスキューiPS細胞のセーフハーバーサイトに、核移行シグナルを付加したEGFPまたはRFP遺伝子をCRISPR/ObLiGaRe法を用いて1コピーずつノックインした。速やかに目的のクローンが得られたため、助成金を次年度へ繰り越しすることが可能となった。次年度は、異数性モザイク集団における細胞競合現象の普遍性を検証するために、ダウン症候群に加えて、トリソミー13、トリソミー18患者由来の初代線維芽細胞の初期化を行い、各iPS細胞の核型を解析して、ダイソミーにレスキューされた細胞を離する計画である。初年度からの繰り越し額と、翌年度分の助成金を合わせて、細胞初期化の試薬ならびにFISHおよび染色体解析試薬に執行することを計画している。
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すべて 雑誌論文 (4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件)
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