• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実施状況報告書

マウスコホートモデル系による環境と生体の時間的不適合の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K22516
研究機関京都府立医科大学

研究代表者

八木田 和弘  京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90324920)

研究期間 (年度) 2019-06-28 – 2022-03-31
キーワード概日リズム / 体内時計 / 概日リズム障害 / シフトワーク / マウスコホート / 環境因子
研究実績の概要

本研究は、環境要因による疾患発症プロセス解明のためのリバーストランスレーショナル研究方法論の確立を目指している。
現代は夜も光が溢れる24時間社会であり、このような光環境と体内時計の不適合は、全身の様々な生理機能に大きな影響を及ぼす。例えばシフトワーカーを対象とした疫学研究では、気分障害、循環器疾患、脳血管疾患、糖尿病、生理不順や不妊、乳がんや前立腺癌等の発症リスクとの関連が示されている。しかし、これらの疫学的エビデンスを裏付ける因果関係は未解明であり、その病態生理の理解やメカニズム解明はこれらの疾患の予防法開発にも必須である。申請者は、概日リズム障害の実態を理解するためのリバーストランスレーショナル研究として、「マウスコホート」研究モデル系を確立した。
これまでに、約2年にわたりマウスを飼育する前向き観察研究の検討を進めてきた結果、同調適応不全をきたすシフト条件で有意な寿命の短縮が認められた。さらに肝臓および腎臓で遺伝子発現ネットワーク解析等を用いて病態探索した結果、同調不能条件で20ヶ月間飼育したマウスにおいて、免疫老化に特徴的な変化の促進を明らかにした(Sci Rep, 2020)。
さらに、今年度は、慢性的な概日リズム障害の結果として炎症の持続による不可逆な組織構造破壊などが生じる前の、いわば「未病状態」に焦点を当て、概日リズム障害の病態が成立するプロセスの解析に挑戦した。「未病」は非常に注目されているものの、疾患概念が未確立で定量的記述が困難な状況である。我々は、概日リズム撹乱という非物質の環境要因による生体恒常性破綻機序を明らかにするため、マウスコホート系を活用し、階層を超えた貫階層的な包括的フェノタイプ解析を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究はこれまで代表者の八木田らが独自に構築してきた「マウスコホート研究」を基盤とした研究アプローチで、環境要因による疾患発症プロセス解明のためのリバーストランスレーショナル研究方法論の確立を目指している。概日リズム障害の実態解明に向け、野生型マウスに明暗周期のシフトという環境撹乱を与え、他の条件を同一にした時の個体機能の変容を観察するという方法論であり、予断を挟まない探索研究としてその有用性を検討するという非常に大きなチャレンジである。これまで、パイロット研究を重ね、本研究の準備を進めてきた。本研究において、概日リズム撹乱の長期的な影響を検討した結果、同調不能な明暗シフト条件において寿命が有意に短くなることが明らかとなり、概日リズム障害が予想以上に生体恒常性に悪影響を及ぼすことが明らかとなった。同時に、我々が構築してきた「マウスコホート研究」が未知の病態解明に有用な研究方法論であることが強く示唆された。このように本研究は、概ね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

概日リズム障害の根本的な病態は、未だ不明な点が多く、発症メカニズムや病態の分子基盤などはほとんど分かっていない。マウスコホート研究は、このような有力な仮説がなく、予想も困難である未知の課題に対する探索研究として、有効な方法論になると考えている。実際、これまでの成果は新聞や科学雑誌「Newton」で紹介されるなど、社会的にも反響が大きく、本研究の有用性が示されつつある状況である。今後は、さらに、「非物質の環境要因による恒常性破綻・疾患発症のロジック解明」というより普遍的原理の解明に向け「マウスコホートを活用した個体別貫階層的フェノタイプ解析」による病態成立プロセス解明を目指す。

次年度使用額が生じた理由

今年度計画していた大規模な網羅的遺伝子発現解析および組織学的解析などが、元々年度末に実施できる予定で計画していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大等による影響により年度内に実施できなかった。繰り越し分は来年度の予算と合わせ、遺伝子発現解析や組織学解析などのメカニズム解明のための実験や成果発表などの研究活動に使用する。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 産業財産権 (2件)

  • [雑誌論文] Effects of constant light exposure on allergic and irritant contact dermatitis in mice reared under constant light conditions2021

    • 著者名/発表者名
      6.Mizutani H, Tamagawa-Mineoka R, Yasuike R, Minami Y, Yagita K, Katoh N.
    • 雑誌名

      Experimental Dermatology

      巻: 30 ページ: 739-744

    • DOI

      10.1111/exd.14308

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Circadian regulation of chemotherapy-induced peripheral neuropathic pain and the underlying transcriptomic landscape2020

    • 著者名/発表者名
      1.Kim HK, Lee SY, Koike N, Kim E, Wirianto M, Burish MJ, Yagita K, Lee HK, Chen Z, Chung JM, Abdi S, Yoo SH
    • 雑誌名

      Sci Rep

      巻: 10 ページ: 13844

    • DOI

      10.1038/s41598-020-70757-w.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Circadian Clock and Cancer: From a viewpoint of Cellular differentiation.2020

    • 著者名/発表者名
      Tsuchiya Y, Umemura Y, Yagita K
    • 雑誌名

      Int. J. Urol

      巻: 27 ページ: 518-524

    • DOI

      10.1111/iju.14231.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Development of the Circadian Core Machinery in Mammals.2020

    • 著者名/発表者名
      Umemura Y, Yagita K
    • 雑誌名

      J. Mol. Biol

      巻: 20 ページ: 30035-8

    • DOI

      10.1016/j.jmb.2019.11.026.

    • 査読あり
  • [学会発表] Circadian Clock-mediated Transition of Physiological State in Developmental and Ageing Process in Mice.2020

    • 著者名/発表者名
      Yagita K
    • 学会等名
      Biannual Meeting of Society for Research on Biological Rhythm 2020
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Circadian clock-mediated state dynamics in developmental and ageing processes in mammals2020

    • 著者名/発表者名
      八木田和弘
    • 学会等名
      第43回日本分子生物学会 ワークショップ
    • 招待講演
  • [学会発表] マウスコホートモデルのディープフェノタイプ研究:概日リズム撹乱による状態遷移2020

    • 著者名/発表者名
      八木田和弘
    • 学会等名
      第93回日本生化学会大会 シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 概日リズム撹乱がもたらす病態2020

    • 著者名/発表者名
      八木田和弘
    • 学会等名
      第54回糖尿病学の進歩
    • 招待講演
  • [産業財産権] 被検者の概日リズムの質を解析するための解析装置、解析方法、及び解析プログラム2021

    • 発明者名
      八木田和弘、小池宣也、笹脇ゆふ
    • 権利者名
      京都府公立大学法人
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2021-01351号
  • [産業財産権] 認知症の発症の兆候の検出を補助するための検出補助方法、検出補助装置、検出補助プログラムおよび検出補助システム2020

    • 発明者名
      八木田和弘
    • 権利者名
      京都府公立大学法人
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2020-08252号

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi