研究課題/領域番号 |
19K22517
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
福原 茂朋 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (70332880)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 血管新生 / 創傷治癒 / 内腔圧 / メカノバイオロジー / アクチン細胞骨格 / 血管内皮細胞 / BARタンパク質 / 細胞極性 |
研究実績の概要 |
これまでゼブラフィッシュを用いた蛍光イメージングにより、創傷治癒過程の血管新生において、血流に対して下流側の損傷血管は活発に伸長するのに対し、上流側の損傷血管は血流に起因する内腔圧によりほとんど伸長しないことを発見した。さらに、内腔圧が血管伸長を抑制する機構について解析し、内腔圧は上流損傷血管を拡張させることで内皮細胞に伸展刺激を負荷すること、さらにこの伸展刺激が内皮細胞におけるアクチン重合・極性形成を阻害することで、細胞遊走と血管伸長を抑えていることを示した。本年度は、さらに詳細な分子メカニズムについて解析を行った。その結果、血管新生において伸長する血管を構成する内皮細胞の先導端には、TOCA1ファミリーF-BARタンパク質が集積し、Arp2/3複合体依存性にアクチン重合を惹起することで、内皮細胞の遊走、血管枝の伸長を制御していることを示した。一方、創傷時血管新生において、内腔圧が負荷された上流損傷血管を構成する内皮細胞では、細胞膜の伸展がBARタンパク質を先導端から乖離し、それによりアクチン重合が起こらず、内皮細胞遊走・血管伸長が阻害されることが示された。以上により、TOCA1ファミリーF-BARタンパク質が血管新生における内皮細胞遊走の制御因子であることを明らかにし、さらに、これら分子が内腔圧のメカノセンサーとして機能し創傷治癒における血管新生を制御していることを見出した。本発見は、内腔圧による血管新生の新たな制御機構を提唱するものであり、血管新生がかかわる疾患の病態解明、さらには治療法開発につながる研究成果である。 糸球体毛細血管の形成機構に関しては、血流の重要性を明らかにし、血流は血管構造を安定化するとともに、糸球体原基のリモデリングを誘導することで、糸球体内への血管侵入を制御していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で示したように、創傷治癒過程の血管新生において血流に対して下流側の損傷血管は活発に伸長するのに対し、上流側の損傷血管は血流に起因する内腔圧によりほとんど伸長しないことを発見し、その分子メカニズムを詳細に明らかにすることができた。その結果、血管新生の新たな制御因子として、TOCA1ファミリーF-BARタンパク質を同定するとともに、これら因子が内腔圧のメカノセンサーとして機能していることを発見し、血管新生の新たな制御機構が明らかとなった。現在、論文化に向け準備を進めている。また、糸球体血管形成にける血流の役割とメカニズムに関する成果についても、現在論文を作成中である。以上を総合的に考え、「当初の計画以上に進展している」との自己評価にした。
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今後の研究の推進方策 |
創傷治癒過程の血管新生における内腔圧の新たな役割とメカニズムに関しては、早急に論文投稿を進めていく。メジャージャーナルへの投稿を予定しているため、リバイスで多くの追加実験を要求されることが予想されるため、それに備えた実験を進めていく。また、糸球体血管形成にける血流の役割とメカニズムに関する成果についても、論文投稿を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症のため、予定していた実験の一部を実施できず、研究費の使用が少なくなったが、その一方で研究を効率的に進めることができ、当初の計画以上に進展させることができた。次年度は、論文投稿を予定しており、リバイスで多くの追加実験を要求されることが予想される。よって、助成金はそのための実験を実施するために使用する。
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