研究課題
細胞外分泌小胞(エクソソーム)の役割が注目されているが、その実体は不明点が多く、とくに糖鎖に関する知見は乏しい。エクソソーム上で糖脂質が膜分子との複合体を形成することを想定し、1.糖鎖に依拠したエクソソームの分離・分取法開発と機能的サブセットの解析、2.エクソソームの細胞への添加時の細胞形質とシグナル変化の解析、を行った。1. エクソソームの機能的サブセットの分取・調製法開発を目指し、①各種糖鎖改変細胞株からのエクソソームをTim4-ビーズを用いて固定し、種々の抗糖鎖抗体を用いてフローサイトメトリーを実施して組成解析を行った。②糖鎖改変細胞からのエクソソームを超遠心法で分離して糖脂質を抽出し、LC-MSによる分子種の解析(かずさ研 池田博士の協力)を行うとともに、各々の糖鎖改変細胞の膜糖脂質の分子種との比較検討を行った。その結果、①糖鎖リモデリング細胞の糖脂質発現と類似の糖鎖がエクソソーム上にも存在することが示された。また、分泌エクソソームを0.2 ~ 10 μg 用いた時に、量依存的な蛍光強度が得られた。②エクソソームともとの細胞上の糖脂質分子種を比較検討したところ、糖鎖に加えて、セラミドの脂肪酸のサイズ分布にも高い類似性が見られた。2. サブセットの取込み細胞の細胞内運命および分別的機能を解析するために、①分取したエクソソームの培養細胞への添加時の細胞内動態を解析した。②マウスLewis肺癌を用いて、高転移/低転移亜株から分泌されるエクソソーム上のガングリオシドの解析と、その添加細胞におけるシグナル分子の活性及び細胞形質の変化を解析した。その結果、GD3陽性メラノーマ細胞由来のエクソソームを蛍光標識してGD3陰性細胞に添加した時、大部分がlysosomeに集積するとともに、添加後15分でAkt およびERK1/2のリン酸化が増強することが示された。
2: おおむね順調に進展している
糖鎖改変細胞由来のエクソソーム組成の比較検討では、糖脂質の分子種が、エクソソームともとの細胞抽出物の解析結果との比較検討で、よく類似していることが示された。このことは、細胞膜上の分子クラスターである脂質ラフトの構成と、エクソソーム上の分子クラスターの類似性を示唆している。また、細胞膜の糖脂質がそのままエクソソームに移行することも示唆する。また、エクソソーム中のタンパク質のいくつかに関して、その含量の動態が明らかになった。さらに、エクソソームの培養細胞に対する細胞形質や細胞内動態およびシグナル制御などの機能に関して、着実な所見が得られつつある。これらの実績から、進捗状況は概ね順調と考えられる。しかし、糖脂質のプロフィール、含有タンパク質の全体像、エクソソーム取込みの経時的観察、さらにはin vivoにおける機能解析など、次年度に向けての課題が数多く明らかになってきているので、一層の展開を目指したい。
(1)エクソソーム膜上の分子クラスターの生化学的解析、免疫沈降/immunoblotting による糖脂質と膜分子との複合体を証明する。Tim4-プレート上に固定化エクソソーム膜上での糖脂質と膜分子との会合のイメージング解析(鈴木との共同研究)を行う。また、エクソソームが含有するタンパク質のproteomics 的解析を行い、糖鎖による固有のクラスターを証明する。さらに、エクソソームを糖脂質糖鎖に依拠してサブセットに分取するため、Tim4-ビーズを用いて収集したエクソソームを一旦リリースして、糖鎖抗体ビーズで捕捉する技術を開発する。(2)エクソソームの培養細胞への取込み後の細胞内動態の観察を、PKH標識エクソソームに蛍光標識糖脂質(安藤 ATTO594)を含有するサンプルを調製して、培養細胞への取込み動態の詳細な経時的観察(鈴木)を実施する。また、エクソソーム糖鎖サブセットの培養細胞への添加時、接着シグナル、増殖因子/受容体シグナル系に関わるシグナル分子のリン酸化レベルの変化を経時的に解析する。さらに、マウス体内へエクソソーム注入後の、イメージングによる体内分布動態の解析、病態変化、癌転移に与える影響等を、マウス由来肺癌、悪性黒色腫等の高/低転移性亜株を用いて解析する。(3)エクソソームの人為的リモデリング法の開発として、 ①エクソソーム組成のリモデリングを試み、目的に合致した組成の調製を可能にする。②そのための高率取込み手法の一つとして、糖脂質や膜タンパク質をリポソームに一旦包埋後、エクソソームとの融合により効果的な移行を試みる。さらに、リポソームにおける特定タンパク質のin vitro translation による膜発現様提示を試みる(京大・秋吉博士との共同研究)。
研究計画の中で掲げていた、エクソソーム中の構成成分の、とくにプロテオミクス的解析、および、超高解像度イメージングによる糖脂質と膜分子の会合および細胞内取込み動態の経時的観察が、機器の整備と日程調製のために十分な実験ができず、次年度に持ち越したために次年度使用額が生じた。これらの課題は、次年度に予定している、プロテオミクス解析、経時的イメージング解析の一環としてできるだけ早期に実施して、全体の成果をより高度なものにするために組み込んでいく。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (2件) 産業財産権 (1件)
Int. J. Mol. Sci.
巻: 21 ページ: E1906
10.3390/ijms21061906
J. Biol. Chem.
巻: 294 ページ: 10833-10845
10.1074/jbc.RA118.007083
Int. Immunol.
巻: 18 ページ: 657-668
10.1093/intimm/dxz004
巻: 10 ページ: 2825
10.3390/ijms20112825
Neuroscience
巻: 397 ページ: 94-106
10.1016/j.neuroscience.2018.11.034
Sci. Rep.
巻: 9 ページ: 14740
10.1038/s41598-019-51333-3