研究課題/領域番号 |
19K22518
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古川 鋼一 中部大学, 生命健康科学部, 特任教授 (80211530)
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研究分担者 |
大海 雄介 中部大学, 生命健康科学部, 助教 (10584758)
古川 圭子 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (50260732)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞外分泌小胞 / 微小環境 / エクソソーム / サブセット / クラスター形成 / シグナル |
研究実績の概要 |
癌細胞、正常細胞の制御における細胞外分泌小胞(エクソソーム)の役割が注目されているが、その実体は不明点が多く、また複合糖鎖の役割に関する知見は乏しい。スフィンゴ糖脂質がエクソソーム上で膜分子と複合体を形成して働くことを想定し、1.糖鎖をベースにしたエクソソームの分離・分取法開発とサブセットの機能解析、2. エクソソーム搭載分子の糖脂質との複合体形成と機能解析、3. エクソソームの細胞取込み機構や糖鎖サブセット間の分別的作用機構、4.エクソソーム搭載分子の人為的改変法の開発、を目指してきた。その結果、 1. エクソソームの、糖鎖に依拠したサブセットの分離・分取法開発と機能解析を目指して、Tim4-ビーズへのエクソソームの捕捉に基づいたフローサイトメトリー法を確立した。種々の酸性糖脂質を単一に発現するメラノーマ細胞パネルを用いて、細胞発現糖脂質と分泌エクソソーム上の発現糖鎖のプロフィールが一致することを明らかにした。また、エクソソーム調製時にFCSを用いると、特定の糖脂質に影響が見られた。抗体固定ビーズとの併用により、健常なエクソソームの収集法確立に近づいている。 2. メラノーマに特徴的に発現するガングリオシドGD3発現メラノーマと、前駆体GM3のみの発現細胞を用いて、エクソソーム含有脂質、糖脂質の組成、分子種の比較を行った(かずさDNA研:池田博士)。その結果、エクソソームの脂質には、膜の脂質ラフトに類似の特徴が認められた。 3. 糖鎖リモデリング癌細胞を数種用いて、分泌エクソソームの培養細胞に対する作用の比較検討を行ったところ、癌関連糖脂質発現細胞由来のエクソソームは、非発現細胞の悪性形質、とくに細胞浸潤能やシグナル活性化を著明に増強することを見出した。さらに、エクソソームの細胞取込みにおける糖鎖複合体の機能を考え、取込み動態のサブセット間の比較検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
掲げた目的と計画に沿って研究を遂行して、おおむね順調に進展している。 1. エクソソームの機能的サブセットの分取・調製法開発と物質基盤の解析に関しては、 Tim4-ビーズを用いての細胞培養液からのエクソソームの分離・調製法を確立し、各々の細胞の糖鎖発現プロフィールに一致したエクソソームの捕捉・精製が可能になった。さらに抗糖鎖抗体結合ビーズを調製し、エクソソームのサブセット分離法を確立する。 2. 単一糖鎖発現細胞から分離したエクソソームのサブセットを用いて、各エクソソームの含有糖脂質、脂質の組成解析を質量分析(MS)により実施した結果、細胞の脂質ラフトに類似した化学組成が示された。さらに、インテグリンやEGF受容体等のタンパク分子の含量を、immunoblottingによりGD3陽性細胞/陰性細胞由来のエクソソーム間で比較し、GD3陽性細胞での著明な増加が示されている。 3. GD3陽性エクソソーム、GD2陽性エクソソーム、GM3のみのエクソソームを培養細胞に添加した時の作用とシグナル変化を解析した結果、癌関連糖鎖の発現細胞由来エクソソームが、陰性細胞の浸潤能や接着能を増強することが示された。さらに、その場合に、Erk1/2やAktなどのリン酸化をより強く誘導することが示された。一方、HEK293細胞や正常astrocyte に対して同様の解析を行った結果、癌細胞に比して、より強いシグナル変化が誘導されることが判明した。これらの結果により、癌細胞由来のエクソソームが癌の微小環境の制御において重要な役割を果たすことが示唆された。 4. 癌の転移に与える影響を検討するために、これまで樹立してきたマウスLewis 肺癌の高転移/低転移亜株を用いて、各々の亜株由来のエクソソームの機能を解析した。その結果、高転移性亜株のエクソソームが低転移性亜株の悪性形質を著明に増強することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
1. エクソソームの機能的サブセットの性状解析のため、種々の抗糖鎖抗体結合ビーズを駆使するとともに、磁気ビーズや、セルソーターによる分離を併用して、各エクソソームの含有糖脂質、インテグリン等のタンパク分子組成を、質量分析(MS)とプロテオーム解析で明らかにする。 2. サブセットの培養細胞への作用と細胞内動態や作用部位のさらなる解析のため、分取したエクソソームの蛍光標識(PKH26)と部位特異的標識、蛍光標識糖脂質(ATTO594)を搭載したエクソソームを用い、エクソソーム上の複合体形成と相互作用を超高解像度で観察する。同時に、細胞への取込み動態の経時的観察と、エクソソーム含有分子の細胞内集積・作用部位・細胞内運命の解析を行う (岐大 安藤、鈴木との共同研究)。 3. サブセットの細胞内機能を解析するため、糖鎖サブセットの培養細胞への添加、あるいはマウスへの注入時の細胞形質やマウス病態の変化を解析すると同時に、培養細胞における接着シグナル、増殖因子/受容体シグナルの伝達分子や、Akt、ERK1/2などのシグナル分子の活性化レベルの変化を引き続き解析する。一方、エクソソーム注入マウスにおける体内分布動態を解析するとともに、癌の転移に与える影響を、マウス由来肺癌または悪性黒色腫の高/低転移亜株を用いて解析する。 4. エクソソームの人為的リモデリング法の開発として、標識糖脂質や膜タンパク質をリポソームに包埋後、エクソソームとの融合により効果的な移行を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画の円滑な遂行が若干遅れたこと、及びCOVID-19のパンデミック流行などにより実験資材の調達が不自由となり、研究内容が十分に実施しきれなかった点があり、次年度使用額が生じた。
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