研究課題/領域番号 |
19K22520
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
毛利 一成 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (00567513)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞内1分子計測 / 蛍光相関分光法 / 細胞内分子の交通ルール |
研究実績の概要 |
これまでに我々は細胞運命決定における確率性の存在が、ERK核移行におけるアナログ・デジタル変換機構に由来する可能性を見出しており、ERKは細胞質内から核膜に到達し、しばらく滞在したのち核膜孔にたどり着いて核質内へと移行すると予想された。我々は細胞深部の核膜においても1分子計測が可能な顕微鏡を構成することで、実際にERKが核膜孔を通過するまでに核膜上に100ミリ秒程度滞在する様子を観察することに成功した。細胞内での計測は多くの細胞内オルガネラの影響に結果が左右されるため、セミインタクト細胞を作り、精製したERKを添加することでその動態を観測する実験系を構築した。また、従来細胞内オルガネラや細胞そのものの運動のため適用が困難であった、共焦点画像を用いた蛍光相関分光法(RICS)を改良することで、新規蛍光相関分光法(FCS)を開発し、細胞内外の分子濃度推定の定量的推定に成功し、ERKの濃度推定に適用している。本手法を液滴内部の分子にも適用することが可能であるとわかり、その拡散係数の推定に成功している。この手法を拡張する研究を行っており、共焦点顕微鏡による走査画像の1次元画素間情報を用いることで分子の流れを推定する手法にも取り組んでいる。全反射1分子計測においては輝点の追跡データから、拡散係数を推定する必要がある。各分子は常に同じ拡散係数で運動しているわけではないため、核膜上や細胞内での不均一な環境条件において拡散係数が遷移する様子を統計的に推定する必要が生じている。このようなデータ取得後のトラック情報に対する統計解析の課題にも取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は細胞深部の核膜においても1分子計測が可能な顕微鏡を構成することで、実際にERKが核膜孔を通過するまでに核膜上に100ミリ秒程度滞在する様子を観察することに成功した。細胞内での計測は多くの細胞内オルガネラの影響に結果が左右されるため、細胞膜を可溶化することで核膜と核膜孔を残したセミインタクト細胞を作り、精製したERKを添加することでその動態を観測する実験系を構築した。また、細胞内外の分子濃度推定のため共焦点顕微鏡の画像解析による蛍光相関分光法(FCS)を開発し、ERKの濃度推定を試みている。本手法は様々な細胞内分子に適用可能であり、酵母のオートファゴソーム前駆体(PAS)が液―液相分離していることの証明のため細胞内の生理的条件での液滴のFCS計測を行うことに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
全反射顕微鏡のさらなる高速化に着手する。時間分解能5~10ミリ秒で細胞内を拡散する分子の計測を行うことを目指す。細胞内はオルガネラの影響で不均一な環境であり、拡散係数は時々刻々と変化していることが想定される。近年1分子計測に適用され多くの実績がある隠れマルコフモデルを用いることで統計解析を行い、それぞれの分子が拡散している状態を分類し、いつどの時点でどれくらいの拡散係数で分子が運動しているのかを推定する手法を確立する。共焦点顕微鏡の画像解析を用いた手法を拡張し、画素間の相関関数を計算することにより、分子の流れる方向と速度を推定することを検討する。これにより核膜孔前後の分子の流れを定量できるか検証する。核膜周辺環境において、細胞質側は小胞体(ER)などのオルガネラが広く分布しており、これらの場所とERKをはじめとした刺激により局在を変化させる分子動態の関係性を種々1分子計測により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
経常的経費については他予算を充当し、本予算で購入予定であった計測機器のアップグレードについて、コロナウイルスの流行などにより納期が遷延し、次年度に延期となったため。
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