研究実績の概要 |
不安などの負の情動は、ストレスとなり、臓器機能を乱し、病気を誘発もしくは病状を悪化させることがある。逆に、喜び、楽しみなどの正の情動は、ストレスを抑制して臓器機能の向上を引き出すことがある。近年、申請者は、特異的な神経回路の活性化により局所炎症が誘導される「ゲートウェイ反射」を発見し、血管を介した神経系と免疫系の機能連関と免疫病の発生機構に新たなページを加えた。本計画では、「ストレスとは何か?」との根本的な疑問を免疫学的に細胞・分子レベルにて理解することに挑戦する。 私たちは加齢とともに体内に自己反応性T細胞を多く保有するようになる。自己反応性T細胞はストレス状況下において「ストレスゲートウェイ反射」により体内で微小炎症を誘導することがわかっており、そのメカニズムには血管内皮細胞での炎症増幅機構であるIL-6アンプが関わる(eLife 2017)。今年度は、ストレスが関わる病態として、腎臓移植時の拒絶反応に着目した。拒絶反応を起こしている患者ではうつなども生じストレスが示唆されているが、尿中エクソソームに含まれるSYT17とORM1が有意に増加しており、ストレス性の微小炎症の病態マーカとなる可能性が示された。具体的には、患者の腎尿細管細胞ではIL-6アンプが活性化されやすかったので、ストレス微小炎症のマーカ候補を当該細胞のRNAseqにて検索し、実際の患者の尿からもSYT17やORM1の発現が高いことも確認した。また、これらの分子はストレス微小炎症のマーカであると同時に制御分子でもあった。そのため、当該尿中マーカは、ストレス微小炎症の非侵襲的測定を可能とすることが示唆され、ストレス免疫学創生に向けた有用なツールとなる。これらの結果はHiguchi et al, Int Immunol 2020, Takada et al, Int Immunol 2020に論文発表した。
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