p53はヒトがんの約半数で変異が生じる最も重要ながん抑制遺伝子である。p53ノックアウトマウスは放射線照射に対して重症の腸管症候群を示すことが知られているが、その機序はこれまで不明であった。我々は放射線照射前後のマウス糞便中のマイクロバイオーム解析の結果、p53が腸内細菌叢を制御することを発見した。本研究では、p53による腸内細菌叢制御に関わる標的遺伝子の探索、および腸内細菌の代謝産物解析を通じて、p53による消化管障害および消化器がん発症制御機構の解明を目指す。さらに標的遺伝子の多型と、消化器がんや炎症性消化管疾患の発症リスクとの関連も検討する。 最終年度は下記について実施し、成果を得た。 目的Ⅰ p53による消化管障害抑制メカニズムの解明: 腸内細菌叢の検討と同様、p53野生型およびノックアウトマウスを用いて、放射線照射の前後で排泄便を回収し、糞便中のIgAの分析を行った。その結果、p53野生型およびノックアウトマウス間で分泌IgA量に変化が認められた。 目的Ⅱ 腸内細菌叢を制御するp53標的遺伝子の同定: p53による誘導が小腸・肝臓組織に認められる遺伝子として、急性期タンパク質Xが候補として絞られた。候補遺伝子内の機能的な多型について、東京大学のバイオバンクジャパンに保管されている17万人の遺伝子型情報および臨床情報を利用し、これら多型の消化器がんや炎症性腸疾患への関与を検討した。
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