JC Venterらによる人工細菌の作製以後、いわゆる合成生物学が本格化し、人工真核生物の合成が試みられている。しかし、ヒトやマウスの細胞の人工細胞合成は非常に困難であり、これを打開するためには単純な真核生物で人工細胞を合成し、その成功に学ぶことが必須である。申請者はマラリア原虫は人工染色体による300kbを超えるDNA移植が可能であること、安定な宿主内環境への適応の結果として僅か27種のステージ特異的転写因子による極めてシンプルな転写制御機構であることに着目し、人工細胞作製に適したモデル生物であると考えた。本研究は、ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)を用いて、実際に細胞外で合成したゲノムスケール合成染色体を安定維持する人工マラリア原虫を作製することで「マラリア原虫が人工細胞合成に適したモデル生物である」ことを実証することを目的とする。R1年度に出芽酵母内で約50kbpの人工ゲノムの合成に成功し、R2年度には合成した人工ゲノムをマラリア原虫へ移植し、これを自律的に維持する人工マラリア原虫の作出に成功した。しかし、COVID-19の影響による試薬不足のため、研究を一時的に中断した。R3年度には実験を再開し、作出した人工マラリア原虫に関してNGSによる解析を行なった。その結果、人工ゲノム原虫内で本来のゲノムと同様にセントロメア・テロメアが機能すること、mRNAの発現は、増加するものの生育には影響しないことなどが明らかとなった。以上の成果より、マラリア原虫が人工細胞合成のモデル生物となることが実験的に証明された。
|