研究課題
脱ユビキチン化酵素(DUB)は、ヒトでは約100種存在し、ユビキチン連結を分解することで多彩な細胞機能を制御するプロテアーゼ群である。我々は、ユビキチンのN末端Met1を介して「直鎖状ユビキチン鎖」を生成する唯一のE3酵素(LUBAC)を発見し、LUBACが炎症や自然・獲得免疫制御に重要なNF-κBシグナルを活性化することを報告するとともに、LUBACによるNF-κB活性化を抑制するDUBとしてCYLDやA20の寄与を示した。さらにOTULINがLUBAC活性制御に関わることが知られるが、その他のDUBがLUBAC制御に関与するか不明である。そこで本年度の研究として我々は、ヒトの88種DUB cDNAを独自に調整し、LUBAC活性を抑制するDUBをルシフェラーゼアッセイにて網羅的にスクリーニングした。その結果、上記のDUBよりも、LUBAC誘導性NF-κB活性化をより強力に阻害する新規酵素として、OTUD6A、OTUD2、OTUD1というOTUファミリーDUBを見出した。これらの中で、OTUD1が最も強力にLUBACやTNF-αによるNF-κB活性を抑制したので、OTUD1に集中して性状解析を進めた。その結果、OTUD1は主にK63ユビキチン鎖を分解するDUBであり、システインプロテアーゼ活性だけでなくN末端領域でTRAFファミリーユビキチンリガーゼに結合することでNF-κB活性制御を司ることを突き止めた。実際に、OTUD1ノックアウト細胞では、炎症性サイトカイン刺激に伴うNF-κB活性化は亢進した。一方、OTUD1はインターフェロン産生経路には促進的に働くことを突き止めた。これらの結果は、OTUD1が自然免疫制御に関わる新規DUBであることを示している。
2: おおむね順調に進展している
自然免疫制御を司る脱ユビキチン化酵素のマップ作成を完成し、最も強力な制御因子として新規因子(OTUD1)を同定し、その細胞機能を明らかにしつつあり、おおむね順調な進捗と考える。
自然免疫制御に関わるDUBとして同定したOTUD1に関して、2019年度の成果をさらに発展させ、生化学的解析、ノックアウト細胞を用いたシグナル伝達解析、および作製したノックアウトマウスをを用いた表現型解析や敗血症モデルなど病態解析を進め、論文化を目指す。また、細菌感染によって引き起こされるゼノファジーや損傷ミトコンドリアを除去するマイトファジーなど選択的オートファジー制御に関わる網羅的DUBマップの作成に着手する。新規DUB候補が同定された場合は、その酵素特異性、活性中心変異体の機能への影響、細胞内局在、ノックアウト(KO)細胞の構築と細胞機能への影響を生化学・分子細胞生物学的に解析し、最も有効な新規因子についてはノックアウトマウスを作製して表現型や病態との関連解析を行う。
2019年度は主にin vitroや細胞レベルでの研究であったこと、Otud1ノックアウトマウス作製・飼育にかかる経費が含まれていないことから当初の計画より低額の使用となった。2020年度にはマウスを用いた研究経費が必要で、細胞内動態解析用試薬・キット、血液生化学受託解析依頼など前年繰越分を併せて精力的に解析する予定であり、研究経費はこれらの計画遂行のため必要である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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