研究課題/領域番号 |
19K22542
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
山田 健人 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (60230463)
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研究分担者 |
林 睦 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60327575)
西田 浩子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80317130)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | スーパーエンハンサー / ChIPseq法 / 病理検体 / モノクローナル抗体 |
研究実績の概要 |
疾患関連遺伝子は、スーパーエンハンサー(SE)と呼ばれる強力なエンハンサーの影響下で、疾患特異的にその発現が制御されている(Cell 155:934, 2013)。SEは、ヒストンH3K27のアセチル化が広範囲に起こっているゲノム領域であり、多くのメディエーター、転写因子、コアクチベーターが凝集しているが、疾患特異的SEとその形成機構には不明な点が多い(Science 361:379, 2018)。このSE解析に必須であるクロマチン免疫沈降塩基配列決定法(ChIPseq)においては、DNAに結合した蛋白質をDNAとホルマリン固定で架橋してから免疫沈降することで行われるが、このホルマリン固定で変性したDNA架橋蛋白質を高親和性で認識しうる抗体が鍵である。一方、全身の多くの疾患について、生検・手術・剖検によるホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織の膨大な病理検体があり、臨床情報と病理診断さらには一部の症例では、遺伝子解析情報も蓄積されている。これらの検体は、生細胞・組織がすでにホルマリン固定されているため、DNA結合蛋白質が架橋された状態で保存されている。われわれは、最近、ホルマリン固定変性蛋白質を高親和性で認識しうるモノクローナル抗体の作成法を開発した(特願2013-158533、PCT/JP2014/070084、特願2018-049308)。そこで本研究では、生細胞や凍結試料ではなく、疾患ごとに膨大な蓄積があるFFPE病理検体でのChIPseq解析を可能にすべく、1)ChIPseq至適抗体の確立を通じた高感度ChIPseq法の開発、2)本法を用いて神経変性疾患、代謝性疾患、感染症、がんにおける疾患特異的なSEとその形成機構を明らかにするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ChIPseq至適抗体の確立を通じた高感度ChIPseq法の開発を行った。まず抗原となる修飾ヒストンH3K9,27およびSE結合蛋白質BETファミリーBRD4, MED1について、バキュロウイルス発現系での産生を行い精製した。8M尿素緩衝液で変性したその抗原蛋白(各種修飾ヒストンH3K9,27およびSE結合蛋白質BETファミリーBRD4, MED1)を合成ポリマーアジュバンドとともにBALB/cマウスへ免疫し、ハイブリドーマを作成、変性抗原を個相化したウェルにてELISA法で一次スクリーニングを行った。現在、DNA架橋変性抗原で二次スクリーニングを行っており、候補となった抗体は、ウエスタンブロット、免疫沈降、BIACOREにて活性を測定するとともに、各種修飾ヒストン蛋白質ペプチドによる吸収試験および抗原遺伝子欠損細胞株を用いた免疫沈降にて特異性を確認している。また神経変性疾患、代謝性疾患、感染症、がんにおける疾患特異的SEとその形成機構の解明を行うためにAlzheimer病、I型糖尿病、結核、各種がん(大腸癌、バーキットリンパ腫)のFFPE検体(病変部位と健常部位)をファイルした。また大腸癌検体において、アセチル化ヒストンH3K27およびBRD4に対する抗体によるChIPseqにて重複して同定しえたSEの中で比較的狭い領域にピークがあるものを選択するための予備実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1)ChIPseq至適抗体の確立を通じた高感度ChIPseq法の開発:変性抗原(各種修飾ヒストンH3K36およびSE結合蛋白質p300, RNA polymerase II, cohesin(SCC3), Nipbl)をBALB/cマウスへ免疫し、ハイブリドーマを作成、変性抗原を個相化したウェルにてELISA法で一次選択を、さらにDNA架橋変性抗原で二次選択を行う。初年度に得られた抗体(H3K9,27, BRD4, MED1)は、免疫ブロット、免疫沈降、BIACOREで活性を測定し、各種修飾ヒストン蛋白質ペプチドによる吸収試験および抗原遺伝子欠損細胞株を用いた免疫沈降にて特異性を確認する。確立した抗体が高感度でChIPseqによりSEを検出しうるか検証するために、がん遺伝子とそのSE領域が明らかながん細胞株とその腫瘍(凍結組織とホルマリン固定組織およびFFPE組織)を用いて、ChIPseqを行いSE検出感度を検証する。 2)神経変性疾患、代謝性疾患、感染症、がんにおける疾患特異的SEとその形成機構の解明:確立した抗体を用いて、Alzheimer病、I型糖尿病、結核、各種がんのFFPE検体によるChIPseqを行いSEを同定する。また癌検体ではアセチル化ヒストンH3K27およびBRD4に対する抗体によるChIPseqにて重複して同定しえたSEの中で比較的狭い領域にピークがあるものを選択する。その領域の一部をビオチン誘導体付加した人工核酸プローブとして、大腸癌細胞株HT29を用いて、PICh法により、固定、クロマチン溶解、ハイブリダイズ後にストレプトアビジン・ビーズで精製し、蛋白質を調整後、銀染色とウエスタンブロットでマーカー蛋白質を確認後、ゲルから蛋白質を抽出し、質量分析計にて蛋白質を同定することで、SE構成蛋白質を網羅的に解析する。
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