研究課題/領域番号 |
19K22543
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
小林 一三 杏林大学, 医学部, 非常勤講師 (30126057)
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研究分担者 |
花田 克浩 大分大学, 医学部, 助教 (90581009)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 胃がん / ピロリ菌 / 制限酵素 / 塩基除去 / DNA両鎖切断 / 変異生成 / がんゲノム |
研究実績の概要 |
ピロリ菌による発癌のしくみは、少数のタンパクの働き以外殆ど何もわかっていない。私たちは、塩基を切り出す新型の制限酵素PabIを発見し、「ピロリ菌が、そのファミリーメンバーをヒト細胞に送り込み、ゲノムに変異を作り癌を起こす」と提唱している。 A1 変異生成実験。遺伝子機能の喪失をもたらす様々な種類の変異を検出できる大腸菌の系が作られている。この菌の遺伝子型を、塩基切り出し制限酵素を誘導発現させる大腸菌に組み込んだ。この制限酵素を発現すると、変異頻度が1-2桁上がった。 A2 胃がんゲノム中の変異シグナチャー。公開データベース中の胃がんのゲノム変異が、この制限酵素の認識配列で高い事を示した。 B. ピロリ菌感染ヒト細胞での染色体切断。塩基切り出し制限酵素遺伝子を持つピロリ菌標準株とその遺伝子をKOした株とを、ヒト胃上皮由来の細胞株に感染させ、染色体切断(DNA両鎖切断)の程度を比較した。切断は、パルスフィールドゲル電気泳動とgamma-H2AX抗体での可視化で検出した。結果は、PabIが染色体切断に関与していることを示した。 C. 胃がんとの関連。東アジア由来のゲノム解読済みのピロリ菌で、由来する病態が「胃がん」か「非胃がん」かを調べた。それらの株で、この塩基切り出し制限酵素遺伝子の遺伝子サイズがインタクトかを調べたところ、インタクトであることと「胃がん」との関連が得られた。この酵素の変異の解析から、多様化選択が起きたサイトを調べ、それを立体構造・機能と結びつけ、ヒト細胞移行のモデルを作った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A1。菌株の構築に時間を要したが、遺伝子機能の喪失変異を検出できる大腸菌で、ピロリ菌塩基切り出し制限酵素を誘導発現すると、変異頻度が1-2桁上がった。予備的な解析では、そのほとんどは、ゲノム再編でも点遺伝子返還でもない、小変異であった。 A2。胃がんのゲノム変異と、この制限酵素の認識配列との関連のオッズ比が高くなった。 B. ヒト細胞での発現体の構築に手間取った。それは、PabIが抑えたつもりでもわずか発現し、構築ホストの大腸菌の染色体を攻撃していたためと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
A1. この条件での標的遺伝子での変異のシーケンシングによって、この制限酵素のサイトに集中しているかを調べる。(なお、今年度本研究に関連して採択された「先進ゲノム支援」課題では、イルミナのディープシーケンシングで変異シグナチャーを直接検討する計画である。) A2. 胃外の組織のがん幾つかについても、データベースから変異シグナチャーを検討する。 B1. ピロリ菌のPabIタンパク質が誘発するヒト染色体の切断に宿主のAPエンドヌクレアーゼが関与しているかを検証する。ヒトのAPE1, APE2をsiRNAでノックダウンさせ、その後に野生株およびpabI変異株を感染させ、染色体の二重鎖切断が起きるか検証する。B2. また、PabIタンパク質発現ベクターをトランスフェクションした後に起きるヒト細胞の反応を、染色体の構造変化を中心に解析する。 B3. PabIのピロリ菌からヒト細胞の核への移行を検出する実験をデザインする。 C. 胃がんとpabI遺伝子の有無の相関を、より多い菌株について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト細胞での発現のための組換え体構築の遅れによる。2020年になって問題点が明らかになり、今年度は研究が格段に進む計画である。
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