研究課題/領域番号 |
19K22548
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
深田 正紀 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 教授 (00335027)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 自己免疫性脳炎 / LGI1 / 組換え抗体 / シナプス / けいれん / 記憶障害 |
研究実績の概要 |
自己免疫性脳炎は、けいれん、記憶障害、見当識障害など多様な症状を示す重篤な脳疾患である。最近、私共を含めた研究により、様々なシナプス蛋白質(NMDA受容体、LGI1、GABA受容体等)に対する自己抗体が次々と同定されてきた。しかし、患者血清中の自己抗体は量、質ともに制約があり、自己抗体と神経症状との因果関係の解明には至っていない。一方、ごく最近、自己免疫性脳炎患者のB細胞から標的蛋白質に対する組換え型モノクロナール抗体(自己抗体)が単離されはじめた。私共は患者由来の組換え型自己抗体を活用し、分子、神経細胞、神経回路、動物個体レベルでの標的蛋白質の生理機能や自己抗体の病態機構を明らかにしていく。2019年度は、共同研究者のPruss博士らよって単離された組換え型モノクロナール抗体の中から、LGI1に特異的に反応する抗体を同定した。特異性の評価はLGI1ノックアウトマウス組織を陰性コントロールに用い、反応性が完全に消失する抗体を選択した。また、これら抗体の抗原認識部位を検討したところ、N末側のLRR(Leucine Rich Repeat)領域とC末側のEPTP (epitempin) Repeat領域を認識する抗体群に分類することができた。過去の私共の患者血清を用いた実験結果と一致して、EPTP Repeat領域に対する抗体は、ADAM22との結合を効率良く阻害した。さらに、これら自己抗体をマウスの海馬組織に添加し、神経細胞の興奮性を電気生理学的に評価したところ、LRRとEPTPのいずれに対する抗体も、有意に神経細胞の興奮性を高めることが明らかとなった(Kornau et al, Ann Neurol, 2020)。これらの結果から、抗LRR抗体はLGI1同士の結合を阻害し、抗EPTP抗体はLGI1とADAM22間の結合を阻害することで、神経機能を阻害することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 患者B細胞から単離した組換え型モノクロナール抗体の中から、LGI1に特異的に反応する抗体を同定した。 (2) LGI1組換抗体の抗原認識部位を決定し、N末側のLRR(Leucine Rich Repeat)領域とC末側のEPTP Repeat領域に反応するクローンを得た。 (3) LRRとEPTPのいずれに対する抗体も、有意に神経細胞の興奮性を高めることを明らかにした(Pruss博士らとの共同研究)。
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今後の研究の推進方策 |
(1) LGI1に対する組換え型自己抗体の単離に続いて、他の抗原分子(CASPR2、GABA受容体、AMPA受容体等)に対する組換え型自己抗体も同様にスクリーニング、単離する(Pruss博士らとの共同研究)。 (2) 得られた組換え型自己抗体の特異性をノックアウト細胞を用いて評価した後、抗原認識部位を同定する。 (3) 組換え抗体を神経組織や脳局所に注入することにより、自己抗体の分子病態と、自己抗体と神経症状との因果関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2019年度の当初に雇用を予定していた技術支援員の採用が年度末となったため、人件費の執行が減少した。また、準備済みの研究リソースを用いて効率よく実験をおこなえたことにより、予定していた物品費の執行が減少した。 (使用計画)新たに単離しつつある組換え型自己抗体の性状解析や機能解析に必要となる物品費(神経細胞培養やイメージング等)およびその他(動物飼育費、分析室使用料など)として、計画的に執行する。
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