研究実績の概要 |
自己免疫性脳炎は、けいれん、記憶障害、精神症状など多様な症状を呈する亜急性の脳疾患である。近年、私共を含めた研究によりこれら患者血清あるいは髄液中には、シナプス蛋白質(NMDA受容体、LGI1、GABA受容体、AMPA受容体等)に対する自己抗体が存在することが明らかになってきた。しかし、患者血清中の自己抗体は量、質ともに制約があり、自己抗体と神経症状との因果関係の解明には至っていない。最近、自己免疫性脳炎患者のB細胞から標的蛋白質に対する組換え型モノクロナール抗体(自己抗体)が単離されはじめた。本研究では、患者由来の組換え型自己抗体を活用し、分子、神経細胞、神経回路、動物個体レベルでの標的蛋白質の生理機能や自己抗体の病態機構を明らかにする。2019年度は、LGI1モノクロナール抗体の解析を進め、その分子、神経細胞、回路病態を明らかにした(Kornau et al, Ann Neurol, 2020)。一方、2020年度は、共同研究者のPruss博士らにより単離された組換え型GABAa受容体モノクロナール抗体の性状解析を進めた。私共は、細胞表面結合実験により、複数得られたGABAa受容体抗体のサブユニット特異性、親和性を明らかにした。当該患者においては、GABAa受容体のαおよびγサブユニットが主たる標的抗原であることを見出した。また、Pruss博士らは、GABAa受容体抗体がGABAa受容体を介したシナプス伝達を減少させること、およびGABAa受容体抗体のマウス脳内投与によりけいれん発作やカタトニアが誘導されことを見出した。以上の結果から、患者由来のGABAa受容体抗体は、GABAa受容体を介したシナプス伝達を阻害することで、けいれん発作やカタトニアを引きおこすことが明らかになった(Kreye et al, bioRxivに掲載, under revision)。
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