研究実績の概要 |
自己免疫性脳炎は、けいれん、記憶障害、見当識障害、精神症状など多様な症状を呈する亜急性の脳疾患である。近年、私共を含めた研究によりこれら患者血清あるいは髄液中には、シナプス蛋白質(NMDA受容体、LGI1、GABA受容体、AMPA受容体等)に対する自己抗体が存在することが明らかになってきた。しかし、患者血清中の自己抗体は量、質ともに制約があり、自己抗体と神経症状との因果関係の解明には至っていない。最近、自己免疫性脳炎患者のB細胞から標的蛋白質に対する組換え型モノクロナール抗体(自己抗体)が単離されはじめた。本研究では、患者由来の組換え型自己抗体を活用し、分子、神経細胞、神経回路レベルでの標的蛋白質の生理機能や自己抗体の病態機構を明らかにする。2020年度は、共同研究者のPruss博士(ドイツ、DZNE)らにより単離された組換え型GABAa受容体モノクロナール抗体の性状解析を進め、論文投稿を行った。2021年度は査読実験を進め、複数得られていたGABAa受容体抗体クローンのサブユニット特異性、親和性ついて、さらなる解析を行った。当該患者においては、GABAa受容体のαおよびγサブユニットが主たる標的抗原であることを、細胞表面結合実験等を用いて明らかにした。また、Pruss博士らは、GABAa受容体自己抗体のシナプス伝達やマウス個体への影響について、査読実験を進めた。これらの査読実験データを加えることにより論文が受理された(Jakob Kreye et al, Journal of Experimental Medicine誌、2022)。本研究は、患者由来のGABAa受容体自己抗体の作用機序を明らかにし、自己抗体とけいれん発作発症との因果関係をはじめて明らかにした点で意義深いとおもわれる。
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