研究課題/領域番号 |
19K22549
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
権田 幸祐 東北大学, 医学系研究科, 教授 (80375435)
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研究分担者 |
北村 成史 東北大学, 医学系研究科, 講師 (50624912)
高野 真由美 東北大学, 医学系研究科, 助教 (60806298)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 腫瘍血管 / 血管新生 / 血管新生阻害療法 / 放射線治療 / ナノ粒子 / CT / イメージング |
研究実績の概要 |
Folkmanらは、がんの増殖が血管新生をともなう事実に基づき、血管成長因子の阻害により腫瘍を兵糧攻めにする治療法(血管新生阻害療法)の概念を提案した。その後、血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体医薬(ベバシズマブ:ヒト化VEGF抗体)が開発され(2004年米国承認、2007年国内承認)が開発され、様々ながんへの治療応用が始まった。しかし、ベバシズマブ単剤で効果(無増悪生存期間や生存期間)を発揮するのは悪性神経膠腫、卵巣がんのみであり、非小細胞肺がん(非扁平上皮がんを除く)、大腸がん、乳がんでは他の抗がん剤との併用でのみで効果が認められた。また担がんマウスを使った実験から、がん組織にベバシズマブに対する耐性が生じること(獲得耐性)が分ってきた。以上のように、概念の提唱から50年近く経った現在も、血管新生阻害療法は期待されたほどの効果を示していない。 本研究では、ベバシズマブによる抗腫瘍効果を補強し、血管新生阻害療法を大きく改善する方法の開発を目指している。この目的達成のため、ベバシズマブ投与のモデルマウスに対し、放射線治療効果を増感させる薬剤(金ナノ粒子)を腫瘍血管や腫瘍細胞へ送達させ、低線量の放射線によって「がん兵糧攻め療法」の効果を向上させる研究計画を立案した。2019年度はベバシズマブ投与と併用する低線量の放射線治療の条件設定を行った。また、金ナノ粒子投与マウスに放射線照射を行い、放射線増感作用による腫瘍縮小効果について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍血管の特異的損傷を目的とした低被爆の放射線治療法の開発を行い、広範ながん治療への展開が困難であった血管新生阻害療法を大きく変革させる「がん兵糧攻め療法」の確立を目指し、2019年度は以下の研究を実施した。 ベバシズマブ投与と併用する低線量の放射線治療の条件設定を行うため、できるだけ低い線量にて、併用療法特異的に腫瘍縮小効果が認められる条件を検討した。その結果、これまでのマウス実験では低線量に相当する2Gyの複数回照射で併用療法効果を示すデータが獲得された。 また金ナノ粒子を担がんマウスに投与し腫瘍に送達させた後、放射線を照射し、腫瘍縮小効果を確認したところ、投与金ナノ粒子の濃度依存的に放射線増感効果を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に得られた条件を利用し、治療後の腫瘍において、腫瘍血管の「形態」、「血流」、「機能」に及ぼす薬効を検討する。具体的には、以下の実験を計画している。 腫瘍血管の形態解析:治療後のマウスに対し、高分解能X線CT装置により腫瘍血管の形態をイメージングする。腫瘍血管全体を3Dで解析後、得られたCT画像からより詳細な評価を必要とする組織部位を定めて腫瘍を薄切する。その後、薄切組織に対し、血管内皮マーカーや血管平滑筋マーカーを標的として免疫染色による解析を行う。 腫瘍血管の血流解析:腫瘍血管は血流の方向や流速が一定でない。また血管構造としては存在するが、実際には血流が非常に乏しい血管が存在する。そこで治療後のマウスに対し、ビオチン化レクチン(血管内皮結合蛋白質)を静脈注入して血管内皮細胞に送達させ、その後ストレプトアビジン末端の金ナノ粒子(造影剤)を静脈投与し、CT撮影を行った後、腫瘍を摘出しパラフィン切片で金ナノ粒子が結合している血管を観察する。血流の乏しい血管内皮には金ナノ粒子が結合しないことから、血流の有無を定量的に判断できる。 腫瘍血管の機能解析:腫瘍血管の重要な機能の一つは、腫瘍血管からがん組織への物質漏出性の亢進(EPR効果)である。治療後のマウスに対し、造影剤としての金ナノ粒子を静注し、一定間隔でCT像を連続撮像し評価を行う。腫瘍血管から漏出する金ナノ粒子の粒子数を高精度解析し、EPR効果への影響を検討する。
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