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2019 年度 実施状況報告書

SUCLA2欠失によって生ずる代謝脆弱性を標的とする新規創薬研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K22555
研究機関金沢大学

研究代表者

高橋 智聡  金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50283619)

研究期間 (年度) 2019-06-28 – 2021-03-31
キーワードがん / 前立腺がん / RB1 / SUCLA2 / 代謝 / 治療
研究実績の概要

前立腺がんの一定の割合で起こる染色体13番長腕RB遺伝子領域の欠失は、アンドロゲン受容体経路の亢進により去勢抵抗性獲得に繋がる。ところが、RB遺伝子領域の欠失は、逆に前立腺がんのアキレス腱ともなる可能性がある。RB遺伝子の近傍に位置するSUCLA2が、RB遺伝子領域の欠失に極めて頻繁に巻き込まれることが判った。SUCLA2は、TCA回路の一部であるsuccinyl CoAを可逆的にsuccinateに変換するsuccinate CoA ligaseヘテロダイマーのbeta-subunitを構成する重要な代謝酵素であり、この欠失は広汎な代謝経路に影響を与えるものと考えられる。事実、SUCLA2遺伝子の生殖系列欠失は、メチルマロン酸尿症等の先天性疾患の原因となることが判明している。我々の観察により、SUCLA2欠失前立腺がん細胞では、ミトコンドリア機能の異常が見出された。本研究では、このSUCLA2の欠失がもたらすがん細胞の代謝経路の「脆弱性」を標的とした治療法を探索する。そのツールとして、CRISPR-CAS9ライブラリー(全代謝遺伝子2,751種類)を用いたドロップアウトスクリーニングと約3,000化合物のドラッグスクリーニングを準備した。SUCLA2遺伝子欠失前立腺がんにおいて合成致死性を示す遺伝子の発見、あるいは、特異的に細胞障害性を発揮する化合物の取得を目指した。現在までに8つの候補遺伝子と2つの化合物を見出し、うち1つの化合物(チモキノン)については、多数の類縁体の活性評価、分子標的の同定(チモキノンのプローブ化による標的分子のプルダウン、化学遺伝学を用いた検索、JFCR39を用いた検索など)と構造展開に進んでいる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

進行前立腺がん症例の少なくとも10%以上にSUCLA2のホモ欠失があると推測した。SUCLA2をホモ欠失させた前立腺がん細胞株DU145には様々な代謝脆弱性が見出された。DU145細胞におけるSUCLA2とSUCLG2の同時欠失は、致死性を示さなかった。SUCLA2ホモ欠失前立腺がんを選択的に傷害する化合物をスクリーニングし、チモキノンとPMAを見出した。モキノンはSUCLA2ヘテロ欠失DU145細胞にも有効であった。チモキノンの類縁体の活性探索を行い、構造展開にも着手した。チモキノンの分子標的を同定すべく、プローブ化にも着手した。以下により具体的な進捗状況を記載する。
1. チモキノンの効果検証:SUCLA2欠失DU145細胞を選択的に傷害する化合物をスクリーニングし、チモキノンとPMAを見出した。モキノンはSUCLA2ホモ欠失・ヘテロ欠失前立腺がんにアポトーシスを誘導した。DU145以外の前立腺がん株においてSUCLA2をCRIPSR-CAS9法によって欠失させた株を作製している。2. チモキノンの構造展開:現在までにチモキノン類縁体13種を解析し、未だ同等の活性を示す化合物を得ていない。3. チモキノンの分子標的:チモキノンの分子標的を同定すべく、このプローブ化に着手した。4. チモキノン以外の候補化合物:より大規模なスクリーニングに耐えることのできるアッセイ系を樹立した。5. SUCLA2欠失前立腺がんのバイオマーカー:SUCLA2をホモあるいはヘテロで欠く前立腺がん細胞株を樹立した。これらの培養上清あるいはこれらを接種した免疫不全マウスの血液および尿をメタボローム解析あるいはGC/MSを用いて解析する準備を行った。
標的疾患に対し有意な効果のある化合物を見出し、この開発に乗りだしている。当所の計画以上の成果であると考える。

今後の研究の推進方策

1. チモキノンの効果検証:DU145以外の複数の前立腺がん株においてSUCLA2をCRIPSR-CAS9法によって欠失させた株を作製する。これらに対するチモキノンの効果を検証する。RB1とSUCLA2の同時欠失が観察される肝細胞がん等における検証も開始する。
2. チモキノンの構造展開:現在までにチモキノン類縁体13種を解析し、未だ同等の活性を示す化合物を得ていない。更に多数の類縁体を試験する。効果の高い類縁体を検知した場合、これを元に構造展開を行う。
3. チモキノンの分子標的:チモキノンの分子標的を同定すべく、このプローブ化に着手した。クリックケミストリーを用い、セファロース上に固定したチモキノンを得る。プルダウン法によって、これに結合する分子を同定する。
4. チモキノン以外の候補化合物:より大規模なスクリーニングに耐えることのできるアッセイ系を樹立した。10,000化合物程度のバックアップスクリーニングを行う。
5. SUCLA2欠失前立腺がんのバイオマーカー:SUCLA2をホモあるいはヘテロで欠く前立腺がん細胞株を樹立した。これらの培養上清あるいはこれらを接種した免疫不全マウスの血液および尿をメタボローム解析あるいはGC/MSを用いて解析する。

次年度使用額が生じた理由

残高が少額であったため、次年度使用とした。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)

  • [国際共同研究] 南オーストラリア大学(オーストラリア)

    • 国名
      オーストラリア
    • 外国機関名
      南オーストラリア大学
  • [国際共同研究] サンクトペテルブルグ医科大学(ロシア連邦)

    • 国名
      ロシア連邦
    • 外国機関名
      サンクトペテルブルグ医科大学
  • [国際共同研究] ダナファーバーがん研究所(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ダナファーバーがん研究所
  • [雑誌論文] mDia1/3-dependent actin polymerization spatiotemporally controls LAT phosphorylation by Zap70 at the immune synapse2020

    • 著者名/発表者名
      Thumkeo D.、Katsura Y.、Nishimura Y.、Kanchanawong P.、Tohyama K.、Ishizaki T.、Kitajima S.、Takahashi C.、Hirata T.、Watanabe N.、Krummel M. F.、Narumiya S.
    • 雑誌名

      Science Advances

      巻: 6 ページ: 2432~2432

    • DOI

      10.1126/sciadv.aay2432

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Retinoblastoma Inactivation Induces a Protumoral Microenvironment via Enhanced CCL2 Secretion2019

    • 著者名/発表者名
      Li Fengkai、Kitajima Shunsuke、Kohno Susumu、Yoshida Akiyo、Tange Shoichiro、Sasaki Soichiro、Okada Nobuhiro、Nishimoto Yuuki、Muranaka Hayato、Nagatani Naoko、Suzuki Misa、Masuda Sayuri、Thai Tran C.、Nishiuchi Takumi、Tanaka Tomoaki、Barbie David A.、Mukaida Naofumi、Takahashi Chiaki
    • 雑誌名

      Cancer Research

      巻: 79 ページ: 3903~3915

    • DOI

      10.1158/0008-5472.CAN-18-3604

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Cancer stem-like properties and gefitinib resistance are dependent on purine synthetic metabolism mediated by the mitochondrial enzyme MTHFD22019

    • 著者名/発表者名
      Nishimura Tatsunori、Nakata Asuka、Chen Xiaoxi、Nishi Kurumi、Meguro-Horike Makiko、Sasaki Soichiro、Kita Kenji、Horike Shin-ichi、Saitoh Kaori、Kato Keiko、Igarashi Kaori、Murayama Takahiko、Kohno Susumu、Takahashi Chiaki、Mukaida Naofumi、Yano Seiji、Soga Tomoyoshi、Tojo Arinobu、Gotoh Noriko
    • 雑誌名

      Oncogene

      巻: 38 ページ: 2464~2481

    • DOI

      doi: 10.1038/s41388-018-0589-1

    • 査読あり
  • [学会発表] RB欠損に付随する代謝遺伝子欠損を標的とした治療法の探索2019

    • 著者名/発表者名
      河野晋, Paing Linn, 曽我朋義, 髙橋智聡
    • 学会等名
      第7回がんと代謝研究会
  • [学会発表] Therapeutic Vulnerability of RB1-SUCLA2 co-deleted Prostate Cancer2019

    • 著者名/発表者名
      Linn P, Kohno S and Takahashi C
    • 学会等名
      第78回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] Pharmacologically targetable vulnerability in prostate adenocarcinoma carrying RB1-SUCLA2 deletion2019

    • 著者名/発表者名
      Linn P, Kohno S and Takahashi C
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会年会
  • [備考] 高橋智聡研究室ホームページ

    • URL

      https://omb.w3.kanazawa-u.ac.jp/index.html

  • [備考] 金沢大学がん進展制御研究所ホームページ

    • URL

      http://ganken.cri.kanazawa-u.ac.jp

  • [産業財産権] SUCLA2遺伝子欠失前立腺がんを特異的に死滅させる化合物2019

    • 発明者名
      高橋智聡、河野晋、Paing Linn
    • 権利者名
      高橋智聡、河野晋、Paing Linn
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2019-228526

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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