研究実績の概要 |
乳がん細胞を取り巻く微小環境の実態を調べていく過程で,乳腺のごく少数の細胞に,細胞内シグナル分子FRS2bが発現していることを見出した。次に,乳腺特異的に細胞膜受容体型チロシンキナーゼHER2/ErbB2を過剰発現することで,乳がんを自然発症する乳がんモデルマウスMMTV-ErbB2を用いて,超早期がんの乳腺微小環境を調べた。その結果,FRS2bは細胞内の小胞上で,炎症性マスターレギュレーター転写因子NFkBを強く活性化することが分かった。FRS2bによって活性化したNFkBは,炎症性サイトカインを産生,これらの炎症性サイトカインが細胞外へ放出されると,そこへ間質細胞や免疫細胞が引き寄せられることが分かった。この状態の乳腺に乳がん幹細胞様細胞を移植すると,一ヶ月以内に大きい腫瘍塊ができあがった。一方,FRS2bを欠失した乳腺に,乳がん幹細胞様細胞を移植しても,全く腫瘍ができてこなかった。このことから,がん幹細胞様細胞が増殖を開始するためには,FRS2bが乳腺細胞内でNFkBを活性化して超早期の微小環境を作ることが必要であることが分かった。これらの結果から,乳がん発症には,FRS2bによって整えられる乳腺微小環境が極めて重要であることが明らかとなり,超早期微小環境の実態を紐解く成果が得られた。PNAS, 2021発表。
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