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2019 年度 実施状況報告書

炎症と腫瘍形成に伴う間質リモデリングの時空間的制御の解析法の確立

研究課題

研究課題/領域番号 19K22563
研究機関大阪大学

研究代表者

菊池 章  大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10204827)

研究期間 (年度) 2019-06-28 – 2021-03-31
キーワードWnt5a / 大腸がん / 炎症 / 1細胞RNAシーケンス / 発がんモデル / AOM / DSS
研究実績の概要

間質は組織幹細胞の恒常性を維持と適切な増殖や分化に必要である一方、炎症や腫瘍形成時には病態を増悪する要因となる。また、間質細胞と組織幹細胞の空間的位置関係が幹細胞性の維持に重要である。私共は長年Wnt5aシグナルによる細胞機能制御について多くの成果を挙げてきたが、最近Wnt5aが上皮細胞直下の既存のマーカーと一致しない線維芽細胞に限局して発現することを見出した。
本研究課題で用いるAOM/DSS誘導性発がんマウスモデルでは、成獣マウスに対して発がん物質であるアゾキシメタン(AOM)投与後、腸炎誘発剤デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を自由飲水させると、4-6週後には大腸腺腫、20週経過後に大腸腺がんへと変化する。2019年度は、AOM/DSSモデルマウスを用いて、20週経過後の腺がんからGp38陽性(血管内皮細胞、上皮細胞、血球細胞陰性)線維芽細胞を取得し、1細胞RNAシーケンスデータを行なったところ、線維芽細胞は6つのサブセットに分かれていることが判明した。これらのサブセットのうちWnt5aに注目すると、Wnt5aはクラスター4に特異的に発現していた。DSS投与中止後4週経つと、大腸組織でのサイトカインのmRNA量は正常状態まで低下したが、IL6 mRNAは14週目で再び増加しめた。興味深いことにWnt5a mRNAも増加し始めた。したがって、AOM/DSS誘導性大腸がんは、一過性炎症応答消退後に、クラスター4の線維芽細胞に誘導されたWnt5aが腫瘍形成に関与する可能性が考えられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

炎症性大腸がんモデルの腫瘍周囲の間質組織において、1細胞RNAシーケンス法により、Wnt5aを発現する線維芽細胞が特定の集団を形成するという成果を得たことは意義深い。本手法を用いて、クラスター4に発現する遺伝子を解析することにより、Wnt5a発現線維芽細胞の機能を明らかにできる可能性が高くなった。また、AOM/DSS誘導性発がんモデルを用いた実験から、一過性炎症が消退した後にWnt5aが発現することにより腫瘍形成に関与することが示唆された。これまでWnt5aはがん細胞の運動や浸潤に関与する可能性は示唆されていたが、本結果により初めてWnt5aがin vivoで腫瘍形成に関与することが示された。
以上のように研究が進捗し、2020年度に行う計画も下記のように明確になったために、予定通り順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

2020年度は最終年度であるので、複数種存在する線維芽細胞サブセットの空間分布を決定する遺伝子発現パターンを明らかにして、炎症や腫瘍が進行する過程での間質の空間的撹乱(間質リモデリング)が病態形成をいかに修飾するのかを解明する。線維芽細胞に着目し、病態形成に伴う間質リモデリングの経時的・空間的な変化を1細胞RNAシーケンス解析によるインフォマティクス等を用いて複合的に解析する方法論を確立する。

次年度使用額が生じた理由

2019年度後半にAOM/DSS発がんマウスモデルにおいて、Wnt5aをノックアウトしたマウスから摘出した縮小腫瘍の周辺線維芽細胞と、野生型マウスから摘出した腫瘍周辺の線維芽細胞の1細胞RNAシーケンスを2回行う予定であった。しかし、線維芽細胞調整の過程で、細胞数が数百個しか採取できていないことが判明し、このまま解析を続行しても十分な結果が得られないと判断した。そこで、改めてマウスを準備して、2020年度に同様の解析を行うこととした。次年度使用する予算は、腫瘍からの線維芽細胞調整のために必要な消耗品費と、1細胞RNAシーケンス解析のために使用する。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] ARL4C is associated with initiation and progression of lung adenocarcinoma and represents a therapeutic target.2020

    • 著者名/発表者名
      Kimura, K., Matsumoto, S. Harada T, Morii E, Nagatomo I, Shintani Y, Kikuchi, A.
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 111(3) ページ: 951~961

    • DOI

      10.1111/cas.14303

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Dynamic palmitoylation controls the microdomain localization of the DKK1 receptors CKAP4 and LRP6.2019

    • 著者名/発表者名
      Sada, R., Kimura, H., Fukata, Y., Fukata, M., Yamamoto, H., Kikuchi, A.
    • 雑誌名

      Science Signaling

      巻: 12(608) ページ: aat9519

    • DOI

      10.1126/scisignal.aat9519

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] CKAP4 Regulates Cell Migration via the Interaction with and Recycling of Integrin.2019

    • 著者名/発表者名
      Osugi, Y., Fumoto, K., Kikuchi, A.
    • 雑誌名

      Molecular and Cellular Biology

      巻: 39(16) ページ: e00073-19

    • DOI

      10.1128/MCB.00073-19

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Mark1 regulates distal airspace expansion through type I pneumocyte flattening in lung development.2019

    • 著者名/発表者名
      Fumoto, K, Takigawa-Imamura, H, Sumiyama, K, Yoshimura, SH, Maehara, N, Kikuchi, A.
    • 雑誌名

      Journal of Cell Science

      巻: 132(24) ページ: jcs235556

    • DOI

      10.1242/jcs.235556

    • 査読あり
  • [雑誌論文] GREB1 induced by Wnt signaling promotes development of hepatoblastoma by suppressing TGFβ signaling.2019

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto, S., Yamamichi, T., Shinzawa, K., Kasahara, Y., Nojima, S., Kodama, T., Obika, S., Takehara, T., Morii, E., Okuyama, H., and Kikuchi, A.
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 10(1) ページ: 3882

    • DOI

      10.1038/s41467-019-11533-x

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] CKAP4, a DKK1 Receptor, Is a Biomarker in Exosomes Derived from Pancreatic Cancer and a Molecular Target for Therapy.2019

    • 著者名/発表者名
      Kimura, H., Yamamoto, H., Harada, T., Fumoto, K., Osugi, Y., Sada, R., Maehara, N., Hikita, H., Mori, S., Eguchi, H., Ikawa, M., Takehara, T., Kikuchi, A.
    • 雑誌名

      Clinical Cancer Research

      巻: 25(6) ページ: 1936~1947

    • DOI

      10.1158/1078-0432.CCR-18-2124

    • 査読あり
  • [学会発表] The Novel Target Molecule of Wnt/Beta-Catenin Signaling and Cancer2019

    • 著者名/発表者名
      Kikuchi, A.
    • 学会等名
      Wnt Signaling (Gordon Conference)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 二つの受容体LRP6とCKAP4を介するDKK1シグナルによる細胞機能制御2019

    • 著者名/発表者名
      菊池章、佐田遼太、木村公一、山本英樹
    • 学会等名
      第71回日本細胞生物学会大会 合同年次大会・第19回日本蛋白質科学会年会.
    • 招待講演
  • [学会発表] オルガノイドと数理モデルで迫る形態形成の仕組み2019

    • 著者名/発表者名
      麓勝己、今村寿子、隅山健太、吉村成弘、菊池章
    • 学会等名
      第92回日本生化学会大会
  • [学会発表] 肝腫瘍に対するARL4Cを標的としたアンチセンス核酸を用いた新規がん治療法の開発.2019

    • 著者名/発表者名
      原田武志、松本真司、廣田傑、木村公一、藤井慎介、菊池章
    • 学会等名
      第92回日本生化学会大会
  • [学会発表] 新規Wntシグナル標的遺伝子によるTGFβシグナルの抑制を介した肝芽腫形成の制御2019

    • 著者名/発表者名
      松本真司、山道拓、新沢康英、奥山宏臣、菊池章
    • 学会等名
      第92回日本生化学会大会
  • [学会発表] WntシグナルはTGFβシグナルを抑制することにより肝芽腫の腫瘍形成を促進する2019

    • 著者名/発表者名
      山道 拓、松本 真司、奥山 宏臣、菊池 章
    • 学会等名
      第78回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] 膵癌細胞の腫瘍浸潤におけるArl4c-IQGAP1の相互作用2019

    • 著者名/発表者名
      原田 昭和、松本 真司、菊池 章
    • 学会等名
      第78回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] Arl4cを標的とした新規肺腺癌治療薬の開発2019

    • 著者名/発表者名
      木村 賢二、松本 真司、新谷 康、菊池 章
    • 学会等名
      第78回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] DKK1受容体CKAP4のパルミチン酸化を介したシグナル制御機構2019

    • 著者名/発表者名
      佐田 遼太、木村 公一、山本 英樹、菊池 章
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] Wnt/β-cateninシグナルの新規標的遺伝子GREB1は、TGFβシグナルの抑制を介して肝芽種形成を促進する2019

    • 著者名/発表者名
      新沢 康英、松本 真司、山道 拓、笠原 勇矢、野島 聡、小玉 尚宏、小比賀 聡、竹原 徹郎、森井 英一、奥山 宏臣、菊池 章
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] DKK1-CKAP4シグナルと転写因子FOXM1のpositive feedback loop形成機構2019

    • 著者名/発表者名
      高田 直季、木村 公一、菊池 章
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会年会
  • [備考] 大阪大学医学系研究科分子病態生化学

    • URL

      http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molbiobc/

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公開日: 2021-01-27  

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