研究課題/領域番号 |
19K22565
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山口 知也 熊本大学, 大学院先導機構, 准教授 (70452191)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | カベオラ / 人工小胞 / ドラッグデリバリー / 薬剤伝達法 / がん治療 |
研究実績の概要 |
水溶性高分子、PEG化リポソーム、高分子ミセルなどの高分子キャリアを利用したDDSは、がん治療を中心として高い注目を集めており、現在までに多くの研究開発が行われているが、臨床的に未だ有用なDDSが開発されていない。私たちはこれまで、ROR1がカベオラ形成に関与し、またカベオラによる小胞形成に必要不可欠な分子であることを見出した。このことから、ROR1発現によるカベオラ形成を介した機能的な人工小胞は、これまでにない新しいDDS開発のための医用材料として有用性・将来性を有する可能性が考えられる。そこで本研究では、私たちがカベオラ制御因子として新たに見出したROR1によるカベオラ依存的な人工小胞の作製と、その小胞を利用した薬剤伝達法の開発に挑戦し、薬剤を腫瘍など体内の必要な場所に正確に届けるDDSとしての開発を目的とした。 今年度は、大腸菌やヒト細胞において検証済みの癌化に寄与しない必要最低限の部分的ROR1蛋白質とともに、カベオラ構成分子であるCAV1、CAVIN1蛋白質を発現させ、in vitro再構築系を立ち上げた。また、電子顕微鏡による形態学的機能解析を行うための条件検討を行い、細胞染色による評価を行った。また並行して、CAV1やCAVIN1の結合力など生化学的解析に加え、ROR1、CAV1、CAVIN1の発現・局在について蛋白質の細胞内局在に関してスクロース濃度勾配遠心法による解析を実施した。来年度においては、上記のin vitro再構築系の更なる検証と解析を進めるとともに、小胞への薬剤の包埋法や付加方法についてROR1の細胞外領域に毒素や蛍光色素等を付加したものを作製し、インビトロ再構築系において人工小胞を作製し、小胞内に包埋することができるか検証し、また癌細胞への送達法として人工小胞膜への特異抗体包埋小胞を用いて、癌細胞へ特異的に取りこまれるか検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通常カベオラを持たない大腸菌やヒト細胞の中に、ヒトのROR1やCAV1遺伝子を組み込み、宿主由来の脂質やコレステロールを利用した、カベオラ小胞の検証を行った。ROR1やCAV1、CAVIN1の発現が認められない、カベオラが存在しない細胞株を用いて、実際にROR1やCAV1、CAVIN1を恒常的に発現させ、カベオラが形成させるかどうか、細胞染色により検討を行った。その結果、三者のタンパク質は細胞内で共局在することが判明した。同様に、上記の方法にて三者を発現させた細胞株を用いてスクロース濃度勾配遠心法による解析を行ったところ、ROR1、CAV1、CAVIN1が濃縮された分画が検出された。このことから、カベオラが発現していない細胞において、ROR1、CAV1、CAVIN1を発現させることで、カベオラ画分を生み出すことに成功した。次に、大腸菌を用いた検証を行った。これまでの報告から、大腸菌にCAV1を発現させると大腸菌内にカベオラ小胞が形成されることが分かっていたが、非常に不安定であることが示唆されている。そこで、私たちは、大腸菌にROR1、CAV1、CAVIN1を発現させる構築系を立ち上げた。CAV1やCAVIN1と相互作用するROR1の細胞内領域部分と、CAV1、CAVIN1を大腸菌で発現させた。その結果、大腸菌内において三者を発現させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
カベオラとは、細胞膜に存在する直径約100nmのフラスコ状の窪みであり、CAV1を骨格とした構造物であるとともに、コレステロールやスフィンゴ脂質に富み、エンドソーム(小胞)を形成する。人工的に精製したカベオラから生まれる小胞は、従来の合成ミセル等に代表される試験管内での再構築系に比べ、安く大量に作ることができることから、精製したカプセル剤を医学的に応用できると考える。そこで本研究では、カベオラ形成因子として新たに見出したROR1分子によるカベオラ依存的な人工的小胞の作製と、その小胞を利用した薬剤伝達法の開発に向けた科学的基盤の構築を目的としている。インビトロ再構築系でのROR1発現による機能的人工小胞の精製に挑戦し、将来的には薬剤を腫瘍など体内の必要な場所に正確に届けるDDSとしての開発及び、臨床応用を目指す。来年度は、細胞、あるいは大腸菌内でのカベオラ形成、カベオラ小胞のさらなる詳細な解析を進め、電子顕微鏡による観察や定量、評価、CAV1やCAVIN1の結合力など生化学的解析に加え、カベオラ小胞の取得方法、評価を行う。また、ROR1は細胞膜に存在する受容体型チロシンキナーゼであるという特性を生かして、ROR1の細胞外領域に毒素や蛍光色素等を付加したものを作製し、インビトロ再構築系において人工小胞を作製し、小胞内に包埋することができるのか、また小胞の細胞内への取り込みや挙動についてトレーサー実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、カベオラを持たない大腸菌やヒト細胞の中に、ヒトのROR1やCAV1遺伝子を組み込み、宿主由来の脂質やコレステロールを利用した人工小胞の作製を行うとともに、標的細胞上の対応する受容体としか結合しない蛋白質等を膜組織に組み込んだ人工小胞の構築に挑戦し、この改良・応用した人工小胞を使った標的細胞への特異的な結合と内容物の取り込み等を検証することが目的である。今年度の研究において、カベオラ構成分子であるCAV1、CAVIN1、そしてROR1蛋白質を、カベオラを持たない大腸菌やヒト細胞の中に発現させ、宿主由来の脂質やコレステロールを利用したin vitro再構築系の立ち上げを行った。しかしながら、このin vitro再構築系の立ち上げには、様々な条件検討(宿主細胞の状態やタンパク質の発現程度、安定性など)が必要となり、多くの時間と労力を要し、その結果、今年度中、上記の検証を行わざるを得ない状況に至った。来年度については、上記のin vitro再構築系の更なる検証と解析を進めるとともに、小胞への薬剤の包埋法や付加方法についてROR1の細胞外領域に毒素や蛍光色素等を付加したものを作製し、インビトロ再構築系において人工小胞を作製し、小胞内に包埋することができるか検証し、また癌細胞への送達法として人工小胞膜への特異抗体包埋小胞を用いて、癌細胞へ特異的に取りこまれるか検討を行う予定である。
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