がん組織は、がん幹細胞から生じる様々な分化形質をもつ細胞種から構成されると考えられている。このような細胞多様性に関する解析は、これまで主にがんモデル動物を用いて進められてきたが、ヒト組織では、技術的・倫理的な制約によりヒトでの実証実験が困難であり、十分に理解されていない。本研究課題では、がん組織の細胞多様性について明らかにし、生物学的な実証と臨床病理学的な検証により、治療標的分子の探索や患者層別化など、新たな治療法開発を推進するための学術基盤を構築することを目的とする。本研究では、大腸がん患者の原発巣・転移巣の同時切除検体に加え、再発巣から樹立された患者由来オルガノイド(PDOs)を解析対象とする。同一患者由来PDOsのscRNA-seq解析を行い、5つのクラスターからなる大腸がん組織の細胞クラスターモデルを作製した。さらに、DEG解析により、幹細胞に特徴的な遺伝子群を同定することに成功した。それらの中で最も幹細胞クラスターに相関が高かった遺伝子の3'UTR領域に、IRES-EGFR-P2A-inducible Cas9カセットをゲノム編集により導入した。その結果、本研究課題で同定したがん幹細胞はオルガノイドの維持に必須であること、また一つのがん幹細胞から分化形質をもつ細胞が産生され、オルガノイドは再構成することができることが明らかになった。さらに、オルガノイド再構成過程のscRNA-seqでは、がん組織にも細胞階層性が存在する可能性が示されている。これらの結果は、患者由来PDOsが、大腸がん組織の細胞多様性の解明に貴重な研究リソースであることを示唆しており、転移・再発に関する研究展開が期待される。
|