細胞老化は正常な細胞が持つ重要ながん抑制機構として働く一方で、様々な炎症性蛋白質を分泌するSASPをおこすことで、がんを誘発する副作用があることが明らかになってきた。近年、正常上皮細胞に発がんストレスが加わると、まず細胞競合によって異常細胞が上皮層から選択的に排除される新しいがん抑制機構の存在が示されつつある。細胞老化と細胞競合のどちらもRasなどのがん遺伝子の変異が引き金になることから、細胞老化と細胞競合は生体内の同一組織で同時におこっている可能性が高いが、細胞競合の詳細な制御機構と細胞老化との関りはこれまで殆ど知られていない。昨年度までに、老化細胞が分泌するSASP因子の中から細胞競合を制御する因子の候補を複数見出し、MDCK細胞のIn vitro細胞競合モデルを用いてその中の責任因子を同定した。さらに今年度は、Hydrodynamic tail vein injection法によりマウスの肝臓の実質細胞に変異型Ras遺伝子を導入し、細胞競合を誘導させる実験系を構築し、責任因子の阻害剤を投与することで細胞競合現象へのSASP因子の関与を解析した。その結果、老化細胞分泌因子存在下では肝臓における細胞競合が阻害されること、さらに責任因子の阻害剤を投与することで変異細胞の上皮層からの排除が促進されることを明らかにした。つまり、老化細胞が分泌するSASP因子は細胞競合を抑制することで加齢に伴うがんの発症率の上昇に関与している可能性が示唆された。
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