免疫チェックポイント阻害剤は、進行がんにも劇的な抗腫瘍効果をもたらす一方で効果が期待される患者は限定的であり、治療応答性の規定因子の解明が喫緊の課題である。申請者は、あるがん腫では腫瘍内部に血小板が侵入し、がん細胞の増殖や上皮間葉転換などに寄与することを報告してきた。本研究では、腫瘍内血小板が抗腫瘍免疫応答に与える影響を検証することを目的とした。 PDPNは、血小板表面のCLEC-2受容体と結合することで血小板の活性化を誘導するI型膜貫通タンパク質であり、がん細胞におけるPDPNの発現亢進は、腫瘍内部への血小板の集積をもたらす。2019年度は、マウス大腸がん細胞にPDPNを過剰発現させた細胞株を樹立し、マウス背部皮下に移植することで、PDPN発現が腫瘍増殖の亢進に寄与することを示した。腫瘍内部における細胞集団の変化をフローサイトメトリーや免疫組織化学染色で解析した結果、PDPN発現腫瘍では腫瘍内部における血小板凝集塊の形成が亢進しており、免疫細胞の存在比も変化していることが確認された。2020年度は、腫瘍におけるPDPN発現が免疫チェックポイント阻害剤による治療効果に与える影響を検討した。その結果、腫瘍におけるPDPN発現が、必ずしも免疫チェックポイント阻害剤の治療抵抗性に寄与するわけではないことが示唆され、がん種の差異により治療応答性が異なることが明らかになった。また、あるPDPN発現腫瘍内部では、免疫細胞の遊走に寄与するケモカインが発現変動していることを見出し、このケモカインの機能阻害により腫瘍増殖を抑制できる可能性を提示することができた。
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