研究課題/領域番号 |
19K22576
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
小根山 千歳 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍制御学分野, 分野長 (90373208)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 3'UTR / がん関連遺伝子 / 発現制御 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、がん関連遺伝子の3’UTRを介した新たな発現制御機構の解明である。メッセンジャーRNAにおいて、蛋白質に翻訳されるコーディング領域の下流には、3'非翻訳領域(3'UTR)と呼ばれる蛋白質に翻訳されない部位がある。この領域はmicroRNAとの相互作用を通じて、翻訳産物(蛋白質)の発現を制御する重要な機能を持つ。 私はこれまでの研究から、がん細胞の生存・運動に重要なRictor遺伝子の発現を3'UTRを介して抑制する低分子化合物を見出した。この知見は、特定の遺伝子発現をその転写後に制御する未知のメカニズムが存在し、低分子化合物によりそこに干渉できることを示唆する。 そこで今年度は、化合物の標的蛋白質候補の同定を行うため、クロスリンク法に加え、独自に開発した化合物依存的プロテオリシスを検出する”プロテアーゼ感受性の変化を利用した標的同定法”によって、化合物が結合する標的蛋白質の同定を試みた。具体的には、ビオチンタグを付加した化合物にRictor発現の高い大腸がん細胞の抽出液を加えストレプトアビジンビーズにより結合蛋白質を回収した。一方で、大腸がん細胞抽出液に本化合物あるいは対照化合物を反応させ、特定の蛋白質量の変化がみられる反応条件を検討・至適化した。両方法について、回収した標的分子候補をLC-MS/MS解析により同定し、同定後に各候補分子の特異的抗体を用いて検証を行った。その結果、本化合物の標的蛋白質候補として、これまでスプライシング・転写・翻訳制御に関わることが知られている3つの蛋白質を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目指しているがん関連遺伝子の3’UTRを介した新たな発現制御機構の解明において、その鍵となる化合物の標的蛋白質候補を3つ見出すことに成功した。今後は標的蛋白質としての精査を行うとともに、それぞれの蛋白質によるRictor遺伝子の3'UTRを介した遺伝子発現制御機構の解明に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、見出した化合物の標的蛋白質候補のRictor発現・がん形質に対する役割を明らかにする。そのためにまず、標的蛋白質候補の機能的意義を検証するため、大腸がん細胞において標的候補分子の過剰発現およびノックダウンを行い、Rictor発現およびmTORC2活性化を調べる。さらに、これらの細胞に化合物を加えた際のRictor発現を調べ、標的候補蛋白質が真の化合物標的であることを検証する。またその分子のドメイン構造や既知の機能・局在・相互作用する分子の機能を手掛かりに、同定した標的蛋白質がどのような分子機構で3'UTR依存的な発現制御に関与しているか検討する。可能性が示唆された分子機構については、関連蛋白質の変異体作成や遺伝子ノックダウンにより検証する。 一方で、作製した化合物標的分子の大腸がん細胞における過剰発現・ノックダウン細胞について、Rictor依存的ながん形質を調べる。そのため細胞形態については細胞骨格形成や細胞接着斑の形成を調べる。さらにがん増殖については、足場非依存性増殖能を軟寒天コロニーアッセイによって、浸潤能はマトリゲルを用いたインベージョンアッセイにより定量化する。また標的分子の生体におけるがん形質への機能を調べるために、ヌードマウスにおける腫瘍形成の抑制を調べる。標的分子のがん形質に対する作用がRictorの発現制御を介したものであるか検証するために、標的分子の過剰発現・ノックダウン細胞にRictor遺伝子のORF配列を導入し、Rictor発現のレスキューによりこれらがん形質が回復するか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は化合物の標的蛋白質の同定を目標としていたが、化合物のビオチンタグ付加体の作製、および標的蛋白質候補同定のためのLC-MS/MS解析は研究協力者の協力を得て実行したため、経費がそれほどかからなかった。しかし次年度は、本研究課題の主題である標的蛋白質候補の役割解析とその制御メカニズム解析のため、様々な細胞作製やがん形質アッセイ、メカニズム解明のための試行錯誤が必要となり、多くの経費を必要とする。
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