時間の認知は、我々の生活の中で重要な脳機能であり、時間を生成する機構を理解することは、脳科学の課題の一つである。しかし、光や匂いなどの感覚刺激の知覚と異なり、時間を「受容」する仕組みも明確でなく、時間認知を司る神経回路に関しては不明な点が多い。これを明らかにするためには、神経細胞の操作と時間認知行動における結果の因果関係から、神経回路の動作原理を導くことが重要である。そこで本研究は、シンプルな神経回路を持つショウジョウバエを用いて、電気ショック罰による時間条件付けのモデルを確立する。課題遂行中の秒単位の時間認識(計時)を行動学的に解析し、それを制御する神経回路の理解を目指す。 今年度は、これまでに得られた実験結果を取りまとめ、論文を国際学術誌に発表した(Ikarashi M & Tanimoto H. Journal of experimental biology. 2021)。本論文では、ショウジョウバエが秒単位の電気刺激に応じた逃避行動を行い、刺激停止後もそれまでの刺激時間の規則性に従って逃避行動を継続することを示した。また、加齢に伴って逃避行動の要素が変化することで、刺激から逃避する際の時間間隔の規則性が損なわれることを明らかにした。
|