研究実績の概要 |
hTPH2のエクソン3に見出した発現抑制塩基配列について、結合配列検索ソフトを用いて探索した結果、様々な結合因子およびその結合モチーフの候補が得られた。結合モチーフの区切りが良い箇所として、これまでの88番からではなく、82番から156番の75塩基とした方が良いと考え、この75塩基を[translational auto-repression element (TRE)]と命名し、これを発現ベクターの様々な箇所に挿入してその作用を調べた。 TREをATGの直下に逆向きに挿入しても強い抑制作用が発揮された。ATGより上流の(1)発現ベクターのCMVエンハンサーの上流(2)CMVプロモーターの直後(3)ATGの直前にそれぞれ挿入したところ、いずれも抑制作用はみられなかった。エクソン1,2,3の様々な組み合わせからTREを除去したものを作成したが、エクソン3のみの場合しかTRE除去による抑制解除は起きず、エクソン2にも新たに独立した抑制機構の存在が示唆された。 ルシフェラーゼアッセイをするものと同様にトランスフェクションした細胞よりRNAを抽出して、ルシフェラーゼの一部を増幅するプライマーを用いてリアルタイムRT-PCRを行い、mRNA発現量を定量した。エクソン1,2,3およびTREの有無のどのような組み合わせでも大きな差はなく、ルシフェラーゼアッセイの値とmRNA量に相関はみられなかった。すなわち、TREによる抑制作用は、転写レベルではなく翻訳レベルで起きていた。 今回見出された[翻訳領域に存在する翻訳抑制塩基配列]は、これまでの転写制御解明のための研究において発現量が増加する結果を鮮明に得られなかった原因のひとつであると考えられる。今後の研究を進める上で重要な発見であり、転写制御機構の解明と並行して、この翻訳抑制機構を解明することが、TPH2発現量を上げるために必須となろう。
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