研究課題
小型霊長類のマーモセットは他個体が一定間隔で行うフィーコールと呼ばれる鳴き声を聞いた際に逆位相でフィーコールを返す「鳴きかわし」を行うことが知られている。この行動を実現するためには聴覚刺激として受容したフィーコールが自分のものであるか他個体のものであるか識別する必要がある。その際には前頭葉から聴覚皮質へのトップダウン信号が重要な役割を果たしていると考えられているが、直接的な検証はまだ行われていない。そこで本研究では、皮質全域からの神経活動を観察しつつ、同時に前頭葉から聴覚皮質へ至るトップダウン信号を光遺伝学的に操作して増強あるいは減弱させ、その際の鳴きかわし行動の変容を観察することで、自己主体感の神経基盤解明を目指す。上記の実現に向け、「トップダウン回路操作技術の開発」および「前頭葉トップダウン回路操作の影響の検証」の2項目で研究開発を行った。初年度は霊長類前頭葉トップダウン回路を賦活する技術の開発、次年度に同回路を抑制する技術の開発を行い、回路操作技術の開発は順調に推移した。計画では、最終年度までに音声コミュニケーション行動の変容を観察する計画であったが、身体的拘束を伴う実験環境下ではマーモセットのコミュニケーション行動の発現が著しく低下するという問題が生じ、計画を変更して自由行動下での神経活動計測手法を開発した。本年度は、大脳皮質広域ECoG電極を留置したマーモセット2個体から鳴きかわし行動中の神経活動の無線計測に成功した。他の個体のコールを聞いて返事をするかどうかの決定には前頭葉、聴覚皮質、後頭頂葉といったヒトの言語機能を担う領野と類似の脳部位が関わることを示唆する結果を得た。
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