研究課題/領域番号 |
19K22585
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山本 慎也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (90371088)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳温度 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、脳局所温度の変化が脳内情報処理にどのような影響を与えるのかを解明することである。脳局所温度が神経活動の潜時に与える影響を調べるため、中脳ドーパミン領域(腹側被蓋野・黒質緻密部)への電気刺激により誘発される局所フィールド電位(誘発電位)を前頭皮質において計測する実験を行った。その際、体温を一定に保ったまま前頭皮質の局所温度のみを制御し、様々な温度における誘発電位のピーク潜時の比較を行った。多変量回帰分析を行った結果、脳温度が低いほど潜時は長くなる負の相関関係(-0.923ms/℃)を示した。また、GABAアンタゴニストであるgabazineを前頭皮質に投与した場合、ピーク潜時は全体として24.256ms長くなり、脳温度と負の相関関係は維持されていた(-1.729ms/℃)。一方、グルタミン酸アンタゴニストであるNBQXおよび(R)-CPP、ドーパミンアンタゴニストであるSCH23390およびracloprideをそれぞれ前頭皮質に投与した場合は、ピーク潜時に有意な影響が観察されなかった。一般に、個々の化学反応は高温ほど早いことが知られているが(アレニウスの式: k = A・exp(-E/RT))、誘発電位も無数の化学反応から構成されていることから、我々の観察した局所脳温度の変化に伴う負の相関関係は説明可能である。(なお、誘発電位の生成において、興奮性のシナプス後電位(EPSP)・抑制性のシナプス後電位(IPSP)の順に生じることが報告されているが(EPSP-IPSP sequence)、GABAアンタゴニスト投与によるピーク潜時の延長は、GABAアンタゴニストにより後半に生じるIPSPが抑制されたため興奮性の活動が長引いたことによると考えられる。)生理的な条件下において、このような局所脳温度の変化に伴う神経活動の潜時の変化が、情報処理に用いられているのかどうかは、今後検討すべき課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、中脳ドーパミン領域から前頭皮質へ投射する神経経路を対象とした実験系において、脳温度と神経活動の関係を明らかにし、論文発表を行った(Gotoh et al., 2020)。そのため、研究の進捗状況は、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、中脳ドーパミン領域(腹側被蓋野・黒質緻密部)を電気刺激し、前頭皮質で誘発電位を記録する実験系において、前頭皮質の脳温度を制御し、様々な温度において誘発電位の比較を行った。その結果、脳局所温度の低下に伴い、誘発電位の大きさは大きくなり、ピーク潜時は遅くなることを発見した。このような脳局所温度の変化に伴う神経活動の変化が、中脳皮質神経路に特異的な現象であるのか、あるいはより一般的な原理を含んでいるのかを明らかにするため、異なる神経経路を対象とした実験を行い、これまれ得られたデータと比較検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、既存の研究設備を有効利用したため、次年度使用額が生じた。次年度は、実験に伴う物品費、データ解析・成果発表に伴う諸費用、人件費に使用する予定である。
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