研究課題/領域番号 |
19K22587
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小川 美香子 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20344351)
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研究分担者 |
東川 桂 北海道大学, アイソトープ総合センター, 助教 (10756878) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | α線治療 / がん免疫 |
研究実績の概要 |
最近、がん治療では免疫細胞の関与が重要であることが明らかとなってきている。そこで、飛程が長いβ線治療ではがん細胞の周囲にあるT細胞・樹状細胞などの免疫細胞を巻きこみ死滅させる可能性があるが、飛程が短いα線治療では放射標識薬剤が結合したがん細胞のみに影響を与えるのではないかと発想した。すなわち、標的化α治療ではがん免疫が活性化していることにより、大きな治療効果が現れているのではないかと考え、α線治療とがん免疫の関連について検討することを本研究の目的とする。 昨年度までに、還元型At-211を利用した新規標識法を開発した。本年度はさらに多くの化合物へ展開し、9種類の化合物の標識合成に成功した。また、樹脂を使った固相での標識合成も達成した。 また、I-131標識体の合成のため、I-125での事前検討を行った。さらに、昨年に引き続き、X線による外照射によるがん免疫の検討を行った。昨年は腫瘍が小さすぎたのと線量が高すぎたので腫瘍がほぼ消失してしまい、フローサイトメータなどによるアッセイがほとんど行えなかったので、今年度は腫瘍が100 mm3超えてから照射することとし、かつ線量を10 Gyから8 Gyに落とし検討を行った。照射開始日(Day0)とDay3にPD-1抗体を投与し、Day4およびDay10に安楽殺し、フローサイトメトリーにより免疫細胞の評価を行った。この結果、X線照射直後に抗腫瘍免疫を担うCD8 T細胞の減少が観察され、外照射により腫瘍組織内の免疫活性が一時的に低下することが示唆された。CD4 T細胞X線照射直後での変化は少ないものの、照射から1週間後では顕著に減少していた。CD4は免疫記憶などにも関与することからその減少は抗腫瘍免疫の減弱につながると考えられる。放射線照射により免疫原性が高まった際にPD-L1の発現が増加するとの報告があったが変化は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は昨年度標識合成に成功したAt-211による検討をさらに進める予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、出張を伴う実験ができなくなりほとんど検討を行うことができなかった。しかし、まだ条件検討は様々必要であるものの、樹脂を用いた合成に成功した。一方、引き続きAt-211での実験が困難であることが予想されるため、F-18による標識検討を開始した。 I-131標識についても、大学施設への立ち入りが限定されたこと、RIの北海道への輸送が滞ったことなどによる影響を受けた。そこで、I-125にて検討を行うこととし標識合成に成功した。さらに、I-131での実験が困難である可能性もあることから、I-125が放出するオージェ電子を利用した治療評価系の立ち上げを行った。 内照射での検討が遅れたため、外照射実験により実験を進め、免疫に関する検討も含めて終了した。 以上、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりできない実験も多くあるが、代替案としての検討を進めており、全体としては進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響が収まれば、At-211, I-131標識RGDペプチドの合成を行い、X線で立ち上げた系を用い検討をする。標識ペプチドの細胞取り込み実験を現在行っており、細胞への取り込みが確認出来次第、I-131あるいはいつ実験が中止になるか判らない状況のため、半減期が長いI-125で検討を行う。これにより外照射において起こるbystander effectあるいはabscopal effectと、α線内照射による免疫の活性化(abscopal effectか?)の違いと同一性について検討を行う。オージェ電子の場合はI-131など硬β線による治療効果とは異なる可能性は高いが、これまで免疫との関連は検討されておらず科学的意義はあると考え代替案として利用する。 At-211による固相合成については、万一、来年度も出張規制により十分に検討できない可能性を踏まえ、福島から空輸にてAt-211を札幌へ運搬するための事務手続きを進める。これにより、北大でも合成検討は可能となる放射能を確保する。
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